ついに黒田が帰ってきた。
2月14日、広島カープの黒田博樹投手が帰国した。16日に入団会見、17日よりキャンプに合流にする予定だ。カープのユニフォームをまとった黒田の登場を待ちわびていたファンは、すでに興奮を隠せない。
元々、広島では絶大な人気を誇っていた黒田だが、今回のカープ復帰にあたり、21億の巨額オファーを蹴ってまで貫いたカープ愛、男気からその人気はさらに加熱している。しかも、黒田の男気エピソードは今回に限った話ではない。メジャー在籍の7年間でも、変わることな く貫かれていたのだ。
そんな黒田の、メジャー時代での男気にふれてみたいと思う。
2007年、メジャー移籍を決めた黒田はロサンゼルス・ドジャースと3年契約を結ぶ。当初、ドジャースは4年契約を提示していたが、黒田は自ら契約期間の短縮を申し出ていたのだ。
その理由を、苦しい思いは三年で十分と語っている。しかしその実は、メジャーでの実績がない自分が、メジャーで実績のある選手を条件面で超えて入団することへの疑問があったからだ。
それは、先輩メジャーリーガー達への敬意とともに、自らの手で実績を作り契約を勝ち取りたいという強い意志の現れでもあった。自分が納得しなけらば好条件にも目を向けない。それほどの信念と意思を持って、メジャーリーグに挑んでいたのだ。
チームメイトとの優勝を優先
契約の話では、こんなエピソードもある。ドジャース最終年のシーズン後半、黒田はトレード候補となった。メジャーでは、優勝の目がなくなるとトレード期限までに、ポストシーズン進出を目指すチームに移籍することは珍しくない。黒田は、優勝を目指すチームに戦力として求められていたのだ。
黒田自身、優勝を望めるチームに行ける事に魅力は感じていた。チームの将来を考えた場合でも、翌年FAとなる自分が出る事で、若手有望株を獲得出来るかもしれない。それは、チームにとってもプラスになる。
しかし、シーズン前からドジャースのメンバーと優勝する事を目標としていた側面もあった。シーズンを共に戦ってきた仲間達との優勝にこそ意義を感じて いたのだ。だから、他チームに移籍し、優勝の瞬間に立ち会えたとしても真の喜びを感じられる事ができるのか疑問があった。
移籍か残留か……。苦悩の末、黒田は契約事項にあったトレード拒否権を行使し、チームに残留したのだった。野球はチームスポーツ、ドジャースのメンバーと一緒に戦って優勝する。その目標を大切にしたのだ。メジャーではあり得ないこの選択には賛否両論あったが、ファンやチームメイトは胸を打たれていた。それを裏付ける手紙が黒田の元に届いている。
「メジャーリーグはビジネスの側面が強いが、あなたはチームの一員として最後まで戦う姿勢を見せてくれました。今の時代にそういう気持ちを持った人がいることが私は嬉しい」
確かに、アメリカという国はドライな部分はある。しかし、こういったチームへの忠誠心を見せる決断に対して、感動を覚えるのは日本もアメリカも同じなののだ。黒田の男気に感化されるのに国境はないようである。
若手選手に送った粋な一言
気遣いも溢れている。2009年8月15日、ダイヤモンドバックス戦に先発した黒田の頭部に、相手打者ラスティ・ライアルの放った打球が直撃してしまう大事故が発生した。黒田は、その場に倒れこみ病院に搬送されそのまま故障者リスト入り。ライアルはこの事件に責任を感じ、謝罪の手紙を黒田に送っている。その文面には、
「あなたにけがをさせてまで、私はメジャーで野球をやろうとは思っていない」
と強く自身を責める内容であった。この手紙を読んだ黒田は、自責の念に押しつぶされそうな26歳の若手に対し、
「僕が野球をやめたとき、彼にボールを当てられたと胸を張れる選手になってほしい」
という粋なコメントで気遣いを見せる。一歩間違えれば、死に至る危険性のある場面。事実、打球が直撃後は後遺症にも悩まされた。しかし、常に危険と隣り合わせのスポーツで、お互いに全力を出し切った中での事故を責めるという選択肢など端からなかった。自身の怪我よりも、この一件で心を病んだ若手を気遣う優しさも、黒田の男気を語る上で外すことのできないエピソードだろう。
仕事に対する譲れぬプライド
優しさだけでなく、時として激しさも出す。滅多に感情を露にすることがない黒田であるが、過去数回感情を露にした場面がある。ドジャース時代のある試合、イニング間にダグアウトから投球の技術的な指導を受けベンチ裏で大暴れした事件があった。良かれと思ってやってくれたことは理解できたが、この行為は消化できるものではなかった。黒田からすれば、
「戦場にいる兵士に、その場で鉄砲の撃ち方を教える人などいないだろう」
という気持ちであった。黒田は、
「いつの試合でも、選手生命が終わってもいい、マウンドは戦場だと思っている」
と語るように、常に覚悟を持って試合に挑んでいる。それだけ一試合、一球に重みを大事にしている 。投げ方の指導は、プライドを強く傷つける行為だったのだろう。
一球の重みといえば、 2013年5月12日のロイヤルズ戦。ある審判の一言が、黒田の怒りを爆発させたのだ。8回に投じた一球、黒田はそれをストライクと信じて疑わなかった。しかし、審判の判定はボール。この判定に、黒田は不満の表情を見せた。その事に対し、審判が降板時に注意。この時に審判が放った一言を、許すことはできなかった。
マウンドから降りる黒田に審判が言ったのは、
「(間違えたのは)その1球だけだろ」
だった。
「その1球を投げるためにたくさんの調整をして、いろんなデータを取り、投げている。それを軽く言われるのは、ちょっと納得がいかなかった」
一球を重んじる黒田にとって、誤審であることを認めるようなこの発言は侮辱以外の何物でもなかった。
普段は冷静な男が、注意してきた審判に詰め寄る様は、チームメイトにも衝撃的であった。自分の仕事にプライドを持ち、それを傷つけられた時は、相手が誰であろうと立ち向かう。その妥協なき姿勢もまた、黒田の男気を表すエピソードと言えるだろう。
お金や栄誉よりも、チームへの忠誠心を重んじ、自身の仕事にプライドを持ち、 それを侵害する者あれば、誰であろうと立ち向かう。合理的に生きることより信念を貫く様は、かつての日本人の象徴。それが、男・黒田博樹なのだ。
(取材・文/井上智博)