橋下市長悲願の「大阪都構想」…住民投票の行方は?

橋下徹オフィシャルサイトより

 市内の小中学校にエアコンの設置の可否を問う埼玉県所沢市の住民投票は、投票率31.54%と、3分の2以上の有権者が投票を棄権した。2013年に東京都小平市で実施された住民投票は投票率35.17%にとどまっている。小平市の住民投票は、事前に投票率50%未満は不成立とされていたため、開票すらされなかった。

 近年、為政者を選出する選挙とは別に、住民投票という形で個別の政策を問う機会が目立つ。そうした住民投票を実施する自治体が注目を浴びる一方で、一票を投じるはずの有権者は驚くほど関心が低い。その背景には、地方政治にそもそも関心が薄いといった実態がある。あるテレビ関係者は、その背景をこう説明する。

「そもそも一地域だけの限定した政策であるために、テレビで取り上げても視聴率が取りにくいとの判断がある。テレビで取り上げないから、ますます世間の耳目を集めなくなる。完全な負のスパイラルですが、だからと言って視聴率を無視して番組をつくるわけにもいかず……」

 テレビや新聞以外にも、地方の政治を取り上げるメディアはある。例えば、地域に密着したニュースを流すケーブルテレビなどがその筆頭だが、残念ながら地上波の影響力とは比べ物にならない。結局、地上波テレビ放送で取り上げられなければ、有権者が政治に興味を傾けることは稀だということになる。

 東京には東京だけの情報を放送するメトロポリタンテレビジョンがある。そうしたことから、東京都政は割とテレビ放送される機会が多く、有権者の関心は高いといえる。それでも市町村単位になると、訴求力はかなり弱まる。

 とにかく、視聴率が取れない、部数が増えないといった理由から、テレビ・新聞を中心とするマスメディアでは国政がなによりも優先されて、地方の政治はおざなりにされてきた。

大阪都構想の是非を問う住民投票

 しかし、所沢市・小平市よりも耳目を集めそうな住民投票が5月17日に予定されている。それが、橋下徹大阪市長が悲願としてきた「大阪都構想」の是非を問う住民投票だ。橋下市長肝煎りの大阪都構想は、大阪府と大阪市を合併させて新たに大阪都をつくるというものだ。これらは大阪市議会でも繰り返し議論されてきた。

 大阪都を推進する橋下徹市長は議会で否決されたことを理由に、いったん辞職。2012年の出直し市長選で出馬して改めて大阪都構想の実現を訴えた。橋下市長は再選したが、市議会の大阪都への姿勢は変わらず、大阪都構想は暗礁に乗り上げていた。

 事態が一転したのは、大阪都に反対していた公明党が住民投票の実施に賛成したからだ。公明党は現在でも「大阪都構想に反対だが、住民投票で市民の意見を聞くのは賛成」という意味不明なスタンスだが、公明党が翻意したことで大阪都構想は動き出した。

 橋下市長が執念を燃やす大阪都構想だが、実は「大阪都」は橋下市長オリジナルの政策ではない。橋下市長は2008年から2011年まで大阪府知事を務めていたが、その前任者の太田房江知事(現・参議院議員)時代から大阪都構想は提唱されていた。当時は大阪新都構想という名称だったが、橋下市長の提唱する大阪都と目指すところは同じである。

 太田知事が提唱した大阪新都構想は大きな話題にならず、大阪府民・市民の関心は集めなかった。それにも関わらず、橋下市長が主張したことで、大阪の有権者の意識を変え、国をも動かした。

「結局、橋下市長のPR力が優れているということですよね。大阪ではお笑い100万票と言われるほど、選挙では“あの人、面白い”という理由で票を入れる有権者も少なくありません。橋下さんは、そうした大阪の気風をうまく汲みあげた。ただ、橋下市長のPR戦略はちょっと飽きられていると感じます」(関西のテレビ局関係者)

 政策議論が活発になることは、有権者の判断材料を増やすことにもつながる。それは、有権者にとってもプラスだろう。

 しかし、PR力があることと、大阪都が大阪府民市民にプラスであることは話が別だ。住民投票まで、残された時間は約3カ月。橋下市長念願の大阪都は住民投票で理解を得られれば、2017年にも実現する。

 住民投票日まで、推進派・反対派がお互いの主張合戦で大阪は二分した状態がつづく。住民投票はどういった結果が出るのか? 大阪維新の会は“ワン大阪”をキャッチフレーズに掲げているが、住民投票が終わった後に果たして大阪はひとつにまとまれるだろうか?

(文/小川裕夫)

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