[東條英利の「日本人の教養」]

ルイ・ヴィトンも影響を受けた日本の家紋のルーツ

デザイン性の高い日本の家紋

 家紋の世界とは意外と奥が深く、その洗練されたデザインは実はモダン・アートにも通用する魅力を秘めています。身近なところでは、かのルイ・ヴィトンもこの日本の家紋に強い影響を受けたとも言われています。

 その真相は定かではありませんが、この説、古くは明治11年(1878年)のパリ万国博覧会にまでさかのぼるようです。当時、創始者であるルイ・ヴィトンは平らなトランクを考案し、それが当時のセレブより好評を博し、トランクの専門店としては既に成功を収めておりました。

 しかし、当時、人気のあったルイ・ヴィトンのトランクは、その偽物も横行しており、そうした流れを防ぐために、より意匠の凝らしたデザインが必要だったと言います。そこで、当時のパリ万国博覧会で生じたジャポニズム・ブームに端を発し、パリでは日本の家紋を紹介する本がベストセラーになったということもあり、そこからヒントを得て、現在のモノグラム・デザインが生まれたと言うのが、このルイ・ヴィトンが日本の家紋に影響を言われたという説です。

 確かに、当時もたらされた浮世絵には、ゴッホを始め、セザンヌやモネといった一流の画家たちが魅了され、大きな影響を受けたというのは有名なはなしです。そう考えると村上隆氏がルイ・ヴィトンとコラボレーションしたご縁も何となく分かる気がしますがどうなのでしょうか。

 先日、自分が主催する勉強会でも、紋章上絵師と呼ばれる、紋付きの紋を手書きで行う技師を職業とする波止場承龍先生をお迎えして家紋のはなしをいろいろと伺いましたが、その洗練されたデザイン性は現代にも充分通用するとおっしゃっておりました。

 今ではあまり家紋を持つということに馴染みがなくなって参りましたが、相手のテーマに則ってそのイメージを象徴化するというのは、ある意味、デザイナーの領域なんですよね。

 そう意味では、この家紋を製作する仕事というのはかなり古くからあったようですが、言い方を変えれば、こうした職業の方たちは元祖デザイナーとも言えるのかもしれません。

 今ではその種類も2万種類以上を数えるようですが、私たちは西洋のデザインに対して憧れにも似た感覚を持ちがちですが、実は、国内もよく見わたせば、海外にも充分通用する先進性を見ることができるんですよね。

 ちなみに、私がこちら波止場先生から伺って非常に興味深かったのが、皇室の家紋のことで、こちらは当然ながら十六弁八重表菊紋と呼ばれる菊花紋を用いているのですが、こちら、ほぼそっくりなデザインが、ツタンカーメン王の墓をはじめ、古代エジプトの遺跡からも出土しております。

 まぁ、たまたまと言えばそうなのかもしれませんが、そのデザインがあまりに酷似している点は何かいろいろと想像がふくらむはなしでもあります。「エジプト・菊花紋」とネットで検索してみれば、その画像を見ることができますので、ご興味があれば是非一度検索してみてください。もともとは、第82代後鳥羽天皇がことのほか菊を愛されたことからこの菊紋を使用され始めたと言いますが、こうした海外から何かしらの影響も受けたものなのでしょうか。大変興味深いところではありますが、こうした家紋の世界、一度、ご自身のルーツを知る上でも触れてみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール

一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター

東條英利

日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、一般社団法人国際教養振興協会を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。

公式サイト/東條英利 公式サイト

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