【DMM.makeトークイベント/vol.1】日本のmakeはどこに向かうのか?

日本のmakeはどこに向かうのか?

 2013年7月から3Dプリンタのサービス提供をスタートし、タレントのビートたけし氏をCMに起用したことでも話題となったDMM.make。2015年1月27日、make事業の第2弾としてローンチされたのが、「DMM.make ROBOTS」だ。ロボットの販売プラットフォームを構築し、販売を行うとともに、ロボット関連企業を「DMM.make ROBOTS」に集結。管理や開発なども行う。

 そして1月27日、DMMのモノづくりが生まれる施設「DMM.make AKIBA」にて、数々のイベントを手がけるツブヤ大学主宰イベントが開催された。テーマは「日本のmakeはどこに向かうのか?」。登壇者は、「DMM.make AKIBA」の支配人・吉田賢造氏、角川アスキー総合研究所の取締役である遠藤諭氏、株式会社ABBALab代表取締役であり、DMM.makeのプロデューサーでもある小笠原治氏、株式会社DAQ、株式会社SQUAIR、株式会社AndMeshの代表取締役である後藤鉄兵氏、株式会社ケイズデザインラボ代表取締役社長である原雄司氏、土佐信道プロデュースによる芸術ユニット、明和電機から土佐信道氏、そして東北芸工大客員教授で銀河ライター主宰、今回のイベントの司会進行役を務める河尻亨一氏の7名という豪華メンバーだ。

 テーマどおり、今回はmakeについての話題が中心となるが、そもそもmakeとは何なのか。登壇者の方々の考えるmakeについて語ってもらった。

「アイデアが関税なしで国境を超える」それぞれの捉えるmakeとは

「僕は製造業に30年くらい携わっていますが、特に製造業では「make」と聞いてもピンときませんでしたね。DMM.makeの3Dプリンタ事業では、当社が3Dプリンタなど導入をお手伝いさせていただいたのですが、この分野はどんどんプレイヤーが入れ替わり始めているなあと、先日ラスベガスで行われたCES(毎年1月にラスベガスで開催される世界最大規模の家電見本市)に行って改めて感じました」

吉田「いまは、DMM.makeの支配人を務めさせてもらってますが、以前は原さんと同様、僕も3Dプリンタの販売をやっていました。3Dプリンタでなんでも作れるっていうイメージがあると思うんですけど、実際サービスを提供してみると、総額5億円の機材を用意しても、なんでも作れる・使えるというわけではなく、重要なのは使い方なんです。使い方次第で、3Dプリントのメリットは大きく変化するんです」

遠藤「そうですよね。例えば、一昨年、あるイベントで「3Dプリンタの三次元スペクトル」という図(下図)を作ったんですね。その後、原さんの本や田中浩也さんの本でも引用してもらっている3Dプリンタのメリットを説明した図なんですが、ある人から「1つ重要なことが抜けているね」と言われたんです。それは、関税がかからなくなる。今まで税関を通らなければいけなかった物理的な製品が、データでやりとりすれば関税がかからない。3Dプリンタの機能を説明する図としては入っていなくてもよかったんだけど、アイデアが国境を超えるというのはそういう波及効果もあるんですね」

後藤「最近、グローバルニッチ(ニッチな産業の中でも国際的市場を開拓していること)という言葉がありますが、僕らはそれって製品のジャンルだけじゃなくて、価格帯にも通用すると思ってます。なので最高級のiPhoneケースという特殊な市場を作っています。iPhoneケースっていろんなところで売っているのに、その製造はほぼ中国製。単純な話ですが、日本製ってだけでグローバルニッチなんですよね。だって世界に飛び出して販路を作ってみると日本の皆さんが思っている以上に、日本の製品、日本の品質はまだまだ通用します。いや、というか圧倒的ですね。最近みんなmakeとかIoTって言い出していて。例えば、Evernoteさんとかevernote Marketって言って最近はリアルにモノを売ったりしてるんですよね。世界が気付き出しているんだと思います。やはり“リアル”の世界ほうが市場がデカいぞなんてね」

土佐「僕は元々実家が工場をやっていて、マスプロダクトに触れていました。一方で自分は芸術家になりたく、その2つが合わさってマルチプルな電器屋風アーティストになりました。先ほど、3Dプリンタは国境を超えるというお話がありましたが、僕が死んでも図面は残る。これって、“折り紙”だと思うんですよ! 折り紙で何かを作るというのが本質であって、紙はそれを具現化するためのアイテムです。その奥にある本質は、生み出し手が死んでも残り続けるものなんです。20年前だってmakeは存在していました。CADさえあれば図面を作って、作ることができたんですが、当時その機械は1億円。でも、今はそれが手の届く範囲に降りてきて、makeする技術を持たなかった人でもmakeできるようになったからこそブームになったんだと思います」

 それぞれが考えるmakeについての考えを伺ったところで、発表されたばかりのロボット事業や、これまでの3Dプリンタについても掘り下げていく。

河尻「プロデューサーということで、今日発表されたばかりのロボット事業についても伺いたいのですが」

小笠原「2年半ほど前に、これからインディーズのメーカーが生まれてくるという僕の仮説を元に、アマゾンで買えないものを作れるようにして売りませんか、という企画をDMM側に持ち込みました。ロボットも、インディーズメーカーの方々のためのエイベックスや吉本興業のようになりたいと。なので、僕らみたいなロボットのキャリアがもっと出てきてもいいと思いますし、“DMM.make ROBOTS”は発表の場でもあります。イチからディストリビューションを開拓したりサポート体制作るなんてしんどいと思うんですが、そういうのを僕らがやりますよ、ということですね」

河尻「そもそも、ペッパー君とかも最近出ましたけど、ロボットを作るのが流行っているんですか?」

小笠原「どうなんですかね……1997年ごろがこの前のロボットブームだったように思いますが、ロボットがトレンドかというと、好きで買っている人っていますか?」

遠藤「AIBO買いました。それも間違って2台も。だから1台は箱をあけてない(笑)」

小笠原「僕もAIBOくらいです。極端な話、他は似たようなモノしか目につかないですよね。だから、同じ場所で作りたいものを作ってもらい、作っている人同士が混ざることで新しいものを生み出していける環境を提供できたらいいなと思っています。まあ、.makeってサービスをやっといてあれですけど、なぜこんなもんを金かけて作りたいのか? っていうものもありますけどね」

「まあ、単なる大量生産品でなくこだわりを持って作られたものが好きという層がいることを忘れてはいけないでしょうね。客層を理解しないと市場は形成されませんから。3Dプリンタで考えると、僕はDMMが3Dプリンタ事業をやらなきゃブームとしては終わってしまっていたかもしれませんね。僕も今まで3Dプリンタや光造形をやってきましたが、ここAKIBAの施設にある機材を使えば最終試作品まで作ることができますよね。そういった施設が秋葉原の中心地にあるというのは凄いことだと思います」

 では、3Dを作り出す人々は、どういう共通点や特徴があるのだろうか。

小笠原「3Dを作るのは、技術より熱意です。3Dプリンタに限って言えば、ここ数年の技術的な進化ってあまりなかったかなと。今は、セラミックで出力できるのを待っているところ。お皿やマグカップなど、一般の知識のない人でも作りたいと思えるのがセラミックだと思います」

「僕が驚いたのは、シェルビー・コブラの復刻版を3Dプリンタで作ったってやつ。企画から完成まで6週間くらいでおこなったっていうからすごい。炭素繊維を配合したことで強度が上がり、手作業の研磨と仕上げでかなりクオリティが上がっています。ここまでのものが出てきたことは、ターニングポイントだと思います」

土佐「3Dプリンタがうちに来たとき、一番嬉しかったのはすぐに作れたことですね」

 作りたいと思ったものを、即座に形にすることができる。そうした場を提供したDMM.makeの存在意義は大きい。ただ、3Dプリンタの市場が拡大んは、問題点がないわけでもないとのこと。

土佐「3Dは量産に繋がる可能性のあるものですが、今はまだ金型を作ってやらないと儲かりません。例えば僕の作ったオタマトーンという製品は13万個売れましたが、これを3Dプリンタで作るわけにはいきませんね。時間と原価がかかりすぎますから。どんどんこういう機器が出てきたら面白いと思いますが、僕自身がメーカーになって3Dプリンタでマスプロをやるかって言ったら、ビビっちゃいます。一口にmakeの市場と言っても、自分で作って売りたい人と、ただ楽しみたいという人の市場があると思います」

「金型からしか作れないという選択肢から、3Dプリンタでハイブリッドに作れるという選択肢を与えたのがすごいと思う。米国ハスブロ社がトランスフォーマーの武器などオプション品を3Dデータで売っている事例があるんですが、トランスフォーマー本体は4000円くらいなのに、オプションは5000円とか。それでも、ビジネスが成り立っている。有名デザイナーがデザインしたアイテムだったら買いますよね? このような形態が発展することには、僕が一番懸念しているのは法の整備です。規制じゃなくて整備、これが必要かと思いますね。だって、3Dプリンタで銃作れちゃうんだから」

小笠原「そんなこと言い出したら、ここの10階なんて(笑)」

 法整備は確かに重要だが、一部の専門的知識を持つ人だけでなく、一般の人でも自由自在にアイデアを形にすることができるのは、makeの世界ならではなのだ。

続く

ツブヤ大学とは?
NPO法人ツブヤ・ユニバーシティーが運営する企画。2010年1月25日より本格的に始動。開始当初よりUstreamなどネット配信を活用した企画を行っている。マンガやゲームなどのサブカルチャーを中心に、アイドルビジネスに迫るイベントや建築に関する企画まで尖った企画を多く行っている。
公式サイト/ツブヤ大学

(取材・文/DMMニュース編集部)

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