ブサイク芸人ランキング発表…芸人の「ブサイク」は武器なのか

ブサイク1位はシソンヌの長谷川忍

 3月2日、東京・渋谷のヨシモト∞ホールにて「よしもと男前ブサイクランキング2015」発表会が行われた。ファンによる投票でよしもと芸人の中から「男前/ブサイク」(男性)と「べっぴん/ぶちゃいく」(女性)にふさわしい芸人を選出。その結果が発表された。

 男前1位に輝いたのはパンサーの向井慧、ブサイク1位はシソンヌの長谷川忍、べっぴん1位はスパイクの小川暖奈、ぶちゃいく1位はハリセンボンの近藤春菜だった。近藤は3年連続のぶちゃいく1位で不名誉な「殿堂入り」を果たした。

 一般社会では、他人の容姿について批判的なことを言うのはタブーとされている。まともな社会人が、他人に面と向かって「ブサイクですね」と言うことはまずない。でも、お笑いの世界は違う。ブサイクは1つの武器であり、強みになりうる。ブサイクな顔を先輩芸人に面白おかしくイジられるのが「おいしい」とされる世界なのだ。

 とはいえ、いくら芸人と言えども、自分がブサイクであるということはそんなに素直に受け入れられるものではない。『アメトーーク!』では「ブスを受け入れられない芸人」「キモイと言われすぎ芸人」という企画が行われたこともあった。ブスを認めたり、キモイと言われるのを受け入れたりするのは、プロの芸人でも相当難しいことなのだ。

 ただ、そこでグッと踏みとどまり、嫌々ながらもブサイクをネタにしていく姿勢こそが、大きな笑いを生み出していくことになる。いわば、ブサイクと言われるのをある程度は本気で嫌がっているからこそ、「ブサイクイジり」は面白くなる。ここにブサイクと呼ばれる芸人の本当の凄みがある。

コンプレックスを絶妙に笑いに変える

 笑いという目的のために芸人が芸人をからかうのは、イジリであってイジメではない。ただ、その境界線はかなり曖昧なものだ。被害者側が少しでも傷ついていればそれはイジメだというのなら、イジリがイジメになっている瞬間ももちろんある。だが、歯を食いしばってそこを乗り越えて、笑いのためにすべてを捧げるからこそ、プロの芸人はあんなに美しく、面白いのだ。

 芸人にとっては、コンプレックスが笑いになると言われる。モテない、貧乏、ハゲ、チビ、デブ、すべてはネタになるというわけだ。ただ、それをより正確に言うなら、コンプレックスが「笑いになる」わけではなく、彼らは自らの意志でコンプレックスを「笑いにしている」のだ。コンプレックスは誰にでもある。傷つきながらそれに向き合い、ギリギリのところでそれを笑いに変えていくのがプロの仕事だ。

「ブサイクランキング」ほど残酷なものはない。人間の尊厳を踏みにじり、容赦なくルックスの良し悪しをネタにする。ましてや、女性版の「ぶちゃいくランキング」は男性よりもさらに救いがない。そこには悲劇しかない。ただ、悲劇の果てに生まれる笑いこそが、人間味があふれていて面白いというのも事実。自らのコンプレックスを明るく笑いのめすブサイク芸人の心意気こそが、実は一番「男前」なのだ。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
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