[3月の総力特集「新幹線開通でいま“北陸”がアツい」]

北陸新幹線はあくまでもカンフル剤…地方創生の未来は|やまもといちろうコラム

画像は『北陸新幹線スペシャルサイト』より

 やまもといちろうです。私の後ろの穴も開通しています。

 それにしても、新しく開業する北陸新幹線。私自身は北陸そのものには何の縁もないし新幹線は死ぬほど乗るので、用事も無いのに新幹線乗ってもなあということでスルーしておったわけなんです。が、家内からは早くも「富山に行きたい」「金沢へ連れて行け」という素敵なオファーを賜りまして、仕事の空き日程をやりくりしようと思っております。そのぐらい、普段は新幹線に乗らない一般の人たちの関心は高いということですね。

 また、2023年には現在の終着駅の金沢から敦賀まで延びるということで、福井県に足を向けることは少なかった私にとってもこれはこれで楽しみです。

 巷の論説では、一部に「北陸新幹線ができたことで金沢、富山から東京に出やすくなって、近畿圏との経済的な結びつきが緩くなってしまうのではないか」という話があるようですが、いままでも用事があれば金沢と羽田で空の往復をしたり、何となればバスや新潟経由で新幹線でもそこまでの不都合は無かったのであまり影響しないのではないでしょうか。
 東京から富山まで2時間ちょっとかー、じゃあ日帰りで富山行くかー、とはなかなかならないでしょうしね。ただ、私鉄やバス乗り継いで東京から3時間とかいう東京近郊の温泉や観光地に行くぐらいなら、もう一万円出して富山や金沢でうまいもの食おうという話にはなりやすいと思うんですよね。その意味でも、選択肢が広がってよかった反面、東京客を見込んだ観光地の熱い戦いはより白熱しそうな気がします。

沿線都市ブランドの重要性

 経済面では、そもそも新潟を除く北陸と東京圏の人の移動は年間400万人から500万人と見られ、諸説あるもののシンクタンクが発表する域内貿易は2兆円強、うち2,500億円ほどの観光産業が2倍になればそれだけで北陸の経済効果は高まるという期待があるのでしょうか。国土交通省の調査資料では、直接の経済効果は年間150億円と見込まれています。ただ、これ単体で話をすると日本の限られた経済力が右のポケットから左のポケットに移動しただけであり、ここから活性化するために何ができるのか良く考えないといけません。

 北陸新幹線の開業が一時的なカンフル剤で終わらないようにするために、沿線都市ごとの特色を基にしたブランドを確立しなければ、従来のビジネス客や基礎的な観光動員数に依存した従来の需要に戻ってしまいます。新幹線が通ったからと言って、金沢や富山に進出しようと思う企業は多くないかもしれませんが、地元で起業しようと思っていた若者が東京に本拠地を移すことはあり得るでしょうし、地域にとって活性化のチャンスが実は衰退のリスクと隣りあわせだった、という笑えない事態にならないことを祈るのみです。

「A列車でいこう」じゃあるまいし、地元に新幹線が来れば都会から人が来て活性化すると無条件で信じている人はいないでしょう。しかし、これをきっかけとして地域の持つ魅力を再考し、その魅力を発信しながら意味のある活動に繋げていくのはとても必要なことです。折りしも、現政権では「地方創生」の名の元に、地域活性化のプロジェクトは沢山立ち上がる一方、実際に地方都市で起きている現実は地方独自のなにがしかを作り上げようにも、それを担える人材が乏しいというジレンマがあるからです。

 長期で人が減っていく日本の地方都市の現状は仕方がないとして、それでも中央からの補助金なしに地域の人たちの両足で、しっかりと経済的に立つことの大事さは言うまでもありません。とりわけ、富山県も石川県も、今後延びる福井県も、住んでいる人たちの幸福度はきわめて高い数字で推移している地域だけに、暮らしやすさ、人間らしさをうまく打ち出しつつ、ぴっかぴかの新幹線に相応しい前向きな施策を期待したいと思います。

著者プロフィール

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

ピックアップ PR 
ランキング
総合
連載