[東條英利の「日本人の教養」]

1人の宮司が100社兼任も…少子高齢化に悩む神社業界

※写真はイメージです。本文と関係ありません

 いよいよ来月、統一地方選が始まります。私の周囲でもにわかに慌ただしくなって参りました。選挙というとどうしても国政ばかりに目が映りがちですが、実は、地域密着という点では、こちらの方が私たちの生活によりダイレクトに関わってきます。

 私も先日、ある議員さんの決起集会を観に行ってきました。私の住む東京というと、あまり目立った問題もないように思えるかもしれませんが、どこにもそれなりの問題があるわけで、昨年から指摘されている、いわゆる「空き家問題」は地方と同じような問題を抱えているようです。

 昨年、野村総合研究所で発表されたレポートでは、2040年で全国の空き家率は36%にも達すると予想しています。およそ、4割近くという大概な数字です。現在、全国でおよそ820万戸の空き家を数え、その割合が13.5%と言われておりますので、この25年で3倍近くまで膨れ上がるという計算です。

 今年からは、2015年問題と言われる団塊世代の年金受給がスタートし、年金財政への負担が高まる中、3年後には2018年問題という18歳の若年人口減少の時代に突入します。以降、かなりの数の大学が廃校に追い込まれて行くと言いますから、こうした空き家問題も含め、いわゆる少子高齢化の問題が顕在化していくのがこれからなのでしょう。

 私の場合、長年、伝統文化の一つとして、神社の実態を調査して参りましたが、状況としてはやはり同じような流れにあります。実際、おおよそ8.8万社の神社が全国にあると言われておりますが、その最高従事者たる宮司さんの数は約1.1万人しかおりません。単純に1人8社兼務しないといけない計算になりますが、私が今まで聞いた中では、一人で100社ほど兼務されているという方もいらっしゃいます。実は、神社もそれくらい担い手が不足しており、この傾向や実態は農業や漁業などとも同じです。

 ただ、そんな神社界の困窮も当初は、単純に文化的な資質にみる構造の老朽化や時代的な趣向の変化といった社会的背景に負うところが大きいと思っておりましたが、こうした空き屋問題や少子化問題の実状をみると、そんな単純な話でもないということが分かってきます。なぜなら、これは既に単純な善し悪しの問題ではなく、国や地域の維持そのものが問われる話だからです。

 ある意味、巨漢の男性がダイエットをしたら体の隅々で皮がタブつくようなもので、余分なところは切除しなければならなくなります。自分たちの今はそんな体の一体どこにあるのか。その見極めが今後一層問われてくるのかもしれません。

 ただ、悲しいかな。人は実際に危機に直面しないとなかなか動けません。こうした傾向は前から続いているはずなのに実感にまでに至らないと「まだ大丈夫」と思ってしまいます。しかし、少子化という問題に至っては1992年から既にその傾向は始まっているようで、18歳の人口は当時の205万人から2009年の121万人へ、このとき、すでに4割近くの大幅減少を記録しています。これは非常に深刻な数値です。

 それでも、なかなか実感に至らないのは結果的に進学率が27%から50%へ倍増したためで、実害が暫定的に抑えられたからに過ぎません。しかし、2031年には、その数、48万人にまで落ち込むという話ですから、もはや、誤摩化しも一切効かない状況まで追い込まれていることになります。ある意味、本当の少子高齢化を実感し始めるのは今まさにこれからなのです。そんな中で迎える今回の統一地方選は、まさにその時代を告げる大事な一歩と言えるでしょう。今まさに、その意識が問われようとしています。

著者プロフィール

一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター

東條英利

日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、一般社団法人国際教養振興協会を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。

公式サイト/東條英利 公式サイト

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