[架神恭介の「よいこのサブカル論」]

食事が不要に!? 完全なる代替食品「ソイレント」を飲んでみた

生きるための栄養素全てが含まれるという「ソイレント」

「人間が生きるために必要な栄養素の全てが含まれる代替食品」として知られるソイレント。これさえあればもはや通常の食事は必要ナシ! 人類は食事という束縛からも自由になれると言います。

 このコンセプトに人々は未来を感じたのか、大人気により長らく手に入らなかったソイレントですが、今年1月に生産を50倍にするというニュースが報じられ、ようやく僕たちの手にも届くようになりました。今回はそんなソイレントの試飲レポートです。

 で、これがそのソイレント。なんだか詰替え用洗剤みたいですが、この中に粉が入っておりまして、ミニボトルに入った油と一緒に水で溶かしてシェイクします。

 すると、このピッチャー一杯分のドリンクになります。1.6リットル。これを一日4~5回に分けて飲むんだって。

 で、肝心の味の方は……美味くない。……不味くもない。やたら粉っぽい豆乳と言いますか。飲めなくないけど美味しくない……。他の参加者によれば「10年位前のプロテインの味」だとか。「よく知っている味なので特に感動がない」とも言っていました。

 それで、ごくごくと2杯分くらい飲んだ後で説明書を見て、「えー、これだけで400kcal……??」と愕然としたり。食事という一日に3回しかない限られたお楽しみ機会の一回分がこんなもののために消費されたのか……という悲しみが胸の奥から。しばらくするとちゃっかり満腹感も生まれてきやがります。ああ、こんなので満腹に……侘しい。

 お値段の方はアメリカ本国だと一食300円で済むためローコスト、とのことですが、日本だと関税やら輸送費やらで、現状なんと一食1200円。高い。つらい。というか、一食300円だって別にローコストとは思わないというか。僕は自炊したら一食150円くらいだし……。

 ソイレントを素で活用できるのは、普段から「食事をする時間がもったいない!」と本気で感じている人だけではないでしょうか。食事に僅かでも楽しみを見出している人は全然ダメだと思います。つらい。

 なお、参加者の中に色々と調味料を試している人もいて、「黒蜜を入れると格段に旨い」ことが分かりましたが、「美味しくして飲むなら、もっと普通に美味しいものを食べればいいのだから、ソイレントの思想としておかしい」という声も。

 一方で公式説明書にも「ピーナツバターやベリーを入れてソイレントをエンジョイしよう!」などと書かれています。ソイレントが完全栄養食なのだとしたら、それらを加えたら加えただけ過剰摂取なのでは……?

ソイレントの実際的な活用法とは…

 試飲会終了後、参加者たちとソイレントの実際的な活用法を話し合ってみました。

筆者「完全栄養食で水があれば作れるので、戦闘食(レーション)としての活用法はどうですかね?」

男性A「これから人を殺そうなんて時に、こんなもの出てきて戦えるか?」

男性B「俺ならこれを出してきたやつを殺すね」

男性C「叛乱だ! 叛乱!」

 食事って士気に影響するもんな。ダメか。

筆者「では、仏教食としてはどうでしょう? 食から楽しみを消すことで無常観を育めるのでは……?」

男性B(浄土宗僧侶)「修行中にこれが出てきたら俺ならキレるね。あと、命を食べてる実感が薄いから逆に良くないんじゃないかな……。ところでこれって、ユダヤ教とかイスラム教の人でも食えんのかな?」

筆者「ジャイナ教徒もこれなら食えるんじゃないですかね?」

男性B「どの宗教でも食える飯と考えると未来がありそうな……」

 不浄観(墓場で腐りゆく死体を見詰めて命の無常を知る)をしながらソイレントを飲むことで効率的に無常観が育めると思うので、筆者はこれイチオシ。

筆者「夫婦ゲンカした時の妻側の意思表示としてどうでしょう?」

男性A「会社から帰ってくるとこれが机の上にポンと置かれているわけか」

女性A「でも、食事を出してくれるだけマシじゃないの?」

 あ、世の中の夫婦ゲンカって食事も出してくれなくなるのか……。ソイレントにすら温かみが。

 ***

 というわけで、上手い活用法はなかなか思い付かなかったのですが、現実的なところで言うと、出勤前、朝食代わりにこれを一杯飲んでいく……というのはアリかもしれませんね。後は災害時の保存食として使えるかも……??

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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