大ニセモノ博覧会「本物の人魚のミイラ」も?

03.10[火]~05.06[水] / 千葉県 / 国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B

 “ニセモノ”と聞くと、食品偽装、ブランドのコピー品、詐欺などなど、どうしても悪いイメージが浮かぶ。ニセモノ=悪。多くの人がそう思っているだろう。ところが、この展覧会のタイトルは「大ニセモノ博覧会」。国立歴史民俗博物館たるものが、なんと大胆な……。

 しかし、国立歴史民俗博物館の館長・久留島さんはプレス向けの内覧会でこう語った。

「実は歴博の展示のうち40%は“ニセモノ”、つまりレプリカなんです。こう言うと『博物館なのにそんなことでいいのか !』と言う方もいらっしゃいますし、ガッカリされてしまうこともあります。でも、なぜここにレプリカがあるのかを考えていただく機会になればと思います。

 本物を現地に残し、わざわざ複製を作る意味や、それまでのストーリを紹介したいですね。レプリカは歴史系の博物館にとってはなくてはならないものです。もっとも、ニセモノを展示するというのは美術館では出来ないことですけどね(笑)」

 国立歴史民俗博物館の考古研究系・教授の西谷氏によると、ニセモノを作るにも緻密な調査が必要とのこと。ニセモノは本物を参考にしないと作れない上、作る過程も研究の上では大切だそう。

 また、西谷氏は「ニセモノと言うと、騙される、悪いイメージがありますが、ニセモノが作られた歴史にも注目していただきたいですね。権利を主張するため、人や家の由緒を示すため、あったらいいな、こうだったらいいな、という願望も入っていますが、とてもよく研究されているのです」とも仰っていた。

左)国立歴史民俗博物館の館長・久留島氏  右)同館 考古研究系・教授の西谷氏

 今回のイベントでは、「ホンモノ」に対する「ニセモノ」を単に展示するのではなく、「ニセモノ」と「ホンモノ」の複雑な関係が、時代や社会背景によってどのように変化してきたのかを明らかにする。

 音声ガイドのナビゲーターを務めるのは、柴崎コウさんの声をもとに製作されたボーカロイド™『ギャラ子』。ボーカロイド™もある意味、人の声をまねた「ニセモノ」と言えるのかもしれない。

スマートフォンで「みんなのミュージアムガイド」というアプリをダウンロードして使用する。

プロローグ 安南陶器ニセモノ事件

 わざわざニセモノを土に埋め、嘘の発掘ビデオまで制作し、偽安南陶器を客に売りつけた。 ちなみにこの展覧会は照明にもかなり気を配っているらしく、展示品が美しく照らし出されている。その照明のおかげか、素人目にはなんだか高そうな陶器に見えてしまう。ホンモノを知らないと、ニセモノと判断することも出来ないのだ。

何と手間のかかることを……

Ⅰ暮らしの中のフェイク

 並べられた小判のうち、どれが偽物の小判か分かるだろうか?どれも本物そっくりだが西谷さんの特別ヒントによると、どれかは“ガチャポン”のおもちゃだそう!

近くで見ても全く分からなかった。

 沢山の掛け軸も展示されていた。“画聖”とも呼ばれた水墨画家の雪舟。雪舟の絵を持っていることは大変な誇りであり、各大名家はこぞってこれを求めた。しかし、実は雪舟の作品は日本に10点程しかないそうだ。それに対して大名家の数は当時およそ300で、とてもではないが足りない。雪舟作品にニセモノが多いというのもうなずける。

 皮肉なことだが、有名過ぎるとニセモノだとばれる確率も高くなってしまうので、そこそこ名が売れている程度がいいそう。

『教授のつぶやき』というコメントも必見。「これは偽物です」と言われると、どこがどうニセモノなのか? を知りたくなってしまうのが人の性。そんなポイントを分かりやすく解説してくれる。“教授”は特にモデルがいるわけではなく、美術界の様々な人の意見をまとめたものらしい。

ここまで言われる作品は一体どんなものなのか、ぜひ実物を見てみて欲しい。
高い評価を受けたニセモノも

 某お宝鑑定番組の影響か、 こうした芸術品がニセモノなのか? ホンモノなのか? ということに注目が集まりがちだが、ニセモノ=ダメという訳ではない。それがこの展覧会の大きなテーマの一つでもある。

どうしても気になる人はテレビ番組に応募してみては?

 例えば宴会や接待など、人間関係を円滑に進めるための場所には、喩えニセモノと言えど名品が必要である。

旧家の宴会場を再現。飾ってある書画は全てニセモノ。

Ⅱ フェイク ― 偽文書、偽造の世界

世間を騒がせた贋作事件

 偽酒・似印酒や、贋作事件、研究者まで騙されたニセモノを紹介。偽酒は本物と同じ菰(こも。樽にかぶせるもの)を使い、わざと何度か転がして汚れを再現したという。また、『本物に近づけるための秘伝のレシピ』まであったが、身体にとっては有害なものも含まれており江戸っ子は“毒酒”と呼んでいたらしい。ただし、ニセモノは買う人がいるから生まれるものでもある。

専門家をも欺いた遺跡のねつ造事件についても紹介

 徳川家康から賜ったとされる偽文書は、朱印が逆さまに押されている。かなり苦心して作ったものだろうに、最後の最後で残念な結果……。これらは混乱の時代を生き抜き、自分たちの権利を主張するためのものだ。いつの時代も様々な理由でニセモノは必要とされてきた。

 また、 ニセモノだけでなく貴重なホンモノの展示もある。新発見された「織田信長黒印状」は初公開だ。信長ほどの有名人になると、書簡などもニセモノが多いらしいがこれはホンモノとのこと。書いてある内容も、東大寺が戦乱時の被害を受けないように保護したというもので、非常に興味深い。

Ⅲ コピー、イミテーションの世界

縄文人だってオシャレしたい

 貝で出来たブレスレットをかたどった土製の腕輪。イミテーションダイヤや、フェイクファーを身に着ける現代人のように、縄文人も今の私達とあまり変わらない感覚を持っていたのだな、と思うと急に親しみが湧いてくる。

 ホンモノに近づけようと涙ぐましい努力を重ねた結果生まれた黒釉の「天目茶碗」など、模倣によって新たな技法が生み出されることもある。

Ⅳ ニセモノの創造性

 お祝い事や、お葬式の時に使われる花輪。元々は生花を使っていたが、時代と共に大きさが変わり、造花でも作られるようになったそう。海外のリースに由来するものだが、地域や風習に合わせて変化していった。

博物館で大量の花輪を見るとは思わなかった

 タオルで出来たものや、缶詰などが入ったものも。これらもニセモノだが、祝い・悲しむ気持ちを精一杯表す方法の一つであることに変わりはない。最近ではまた生花で作られるケースも増えているそうだ。時代によってホンモノを使うのか、ニセモノを使うのかも変わってくる。

人魚のミイラ(国立歴史民俗博物館蔵)

 展覧会の目玉の一つでもある、“ホンモノ”の人魚のミイラ。昨年作られたそうだから、世界で一番新しい人魚のミイラだ。人魚は伝説の生き物(とされていて)、これは作られたニセモノ。しかし、古くから伝わる製法で作られた人魚のミイラは、ある意味“ホンモノ”。なんとも不思議な感じだ。

 人魚は薬として高く取引された。プラシーボ効果かもしれないが、それで本当に健康になった人もいたのだろうか? また、見世物としても人気があったらしい。ある意味人を幸せにするニセモノだ。

人魚のミイラの作り方も!

 ちなみに図録にも人魚のミイラの制作工程が掲載されているので、興味がある方はチャレンジしてみてはいかがだろうか(ただし、材料の入手、様々な作業など、かなり困難を極めることが予想される)

怪しげな雰囲気

 このエリアのテーマは見世物小屋で、のぞき穴をのぞくと妖怪が見える仕掛けなどもある。穴の向こうにあるのはニセモノと分かっていても、何だかドキドキしてしまう。実際に見えるのは可愛らしい妖怪たち。

覗き穴から妖怪をウォッチ
オニのミイラ(江戸時代 村田町歴史みらい館蔵)

V 博物館の「レプリカ」と「コピー」

 展示の為のレプリカは、代用品としてだけでなく、現物の劣化を防ぐための目的もある。また、また、当時と同じ方法で復元制作するなど、レプリカを製作過程も研究の一環になっている。贋金作りと小判の復元制作が紹介されていた。どちらも限りなく本物に近付ける行程が続くが、その目的は全く異なる。

こちらは「ホンモノ」の小判・大判が展示されたコーナー

 モノだけではなく、音のニセモノもある。コピーと著作権は切っても切れない関係で、現在でもしばしば問題になる。ここではレコードの複製から著作権について学ぶことが出来る。

実際の演奏をホンモノとするなら、レコードやCDの音はニセモノなのだろうか?

体験コーナー『大金を持ってみよう!』

 実際に触れられるコーナーも。

様々な『大金』を持つ感覚を体験出来る
左)実物大の天正大判 右)千両箱

 大判はともかく、千両箱はとても片手では持ち上げられない。鼠小僧のようにこれを担いで屋根を飛び移るのは難しそうだ。夢破れたり。

100万円×10束=1000万円 1000万円のブロック×10個=1億円!! 動悸が高まる。

 千両箱が無理なら現ナマだー! 一億円を持ち上げようと試みるも、こちらもかなりの重量。約10kgあるらしい。強盗などという不埒な考えはきっぱり諦めたほうがよさそうだ。お金の重み(物理)を身に染みて感じた。

展覧会グッズは基本的にキンキラキン。金運があがりそう
お土産にもホンモノとニセモノが!? 右のストラップはホンモノの古銭を使っているらしい。

 ジュラ紀から現代までにわたる、およそ300点の「ニセモノ」と「ホンモノ」たち。 たくさんのニセモノを見たことで、ニセモノ=インチキ、というイメージは完全に覆った。単にニセモノだからダメ、ホンモノだから良い、ということではない。時にニセモノはホンモノを超え、重要な役割を持つ。

 ニセモノをこんなにアカデミックに、楽しんで鑑賞したのは初めてだ。ニセモノも悪くない。

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(文・写真/篠崎夏美)

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