[架神恭介の「よいこのサブカル論」]

ジャンプ『Ultra Battle Satellite』の投げ技は本当に強いか…柔術チャンピオンに聞いてみた

週刊少年ジャンプ2015年20号『Ultra Battle Satellite』で描かれた投げ技

 週刊少年ジャンプ2015年20号にて、格闘漫画『Ultra Battle Satellite』でプロレスラー相手の戦いが描かれました。

 劇中では相手プロレスラーの投げ技「デス・ゴール」(相手を担ぎ上げ、頭から地面に叩き落とす)を盗んで使い、勝利を収めた主人公ですが、僕には前々から気になっていたことがあるのです。「投げ技は本当に強いのか」……と。

 柔道なども練習や試合であれだけ投げられながらも選手はずっと続けているわけで、続けていられるということは投げにはダメージがないということなのでは? いや、確かに高校の授業で柔道をやった経験では、受け身を取っても痛いことは痛かったんですが、KOできるほどの威力が投げ技には本当にあるのでしょうか。

 受け身を取っちゃえばそんなでもないんじゃないの? 素人目にはよく分からないその辺のことを、今回はブラジリアン柔術の日本チャンピオンであり漫画ライターでもある近藤哲也さんに聞いてきました。

路上での投げの強さ

──と、いう感じなんですが、実際のところ、どうなんでしょうか?

近藤「いや、投げ技は強いですよ。柔道が平気なのは主にクッション性の問題ですね。道場の畳には中にスプリングが入っていますが、路上ではそうはいきません。路上だと転んで膝を突くだけでも膝が擦り剥けちゃうじゃないですか。路上での投げってのはそういうことです。受け身を取っても畳と違って地面にエネルギーが逃げないから痛いんですよ」

──ということは今週の『UBS』において、床板が抜けたことで、主人公は相手の投げの威力を軽減させていましたが、あれは合理的な描写ですか。

近藤「そうですね。実はこれは打撃でも同じで、空手の板割りってあるじゃないですか。あれも板を殴って割れなかったら自分にダメージが返ってくるから痛いんですけど、ちゃんと割れたらエネルギーが突き抜けるから痛くないんですよ」

──なるほど~。

投げ方によるダメージの違い

近藤「当然ですけど、投げ方によってもダメージは違ってきますよね。ちょっとマイクで説明しましょう」

──はぁ、マイク(注:インタビューはカラオケボックスにて行われました)。

近藤「一本背負いとか、背負投げだと、こう担ぎあげて……」

近藤「こう投げますよね。すると前方に力が抜けていきます。相手が前回り前転をするイメージです。エネルギーが抜けちゃうのでダメージは少なくなります。背中から落ちやすいような投げ方を良しとすることで、柔道はルールで危険性を減らしてるんです」

近藤「一方で『UBS』の『デス・ゴール』のような投げ方だと、こう持ち上げて……」

近藤「そのまま落とします。自分の体重ごと落とすのでモロにダメージが乗りますし、相手は受け身を取れません。投げ技には『投げる』のと『落とす』のがあるわけですが、『落とす』方が強いわけです。大外刈みたいに『倒す』のも強いですね。ピンと背筋を伸ばして立った状態から後ろにそのまま転がったら痛いでしょう? そこに掛け手の体重を載せるんですから……」

──同じくジャンプ漫画の『ジュウドウズ』に足払いを使うキャラが出てきましたが、足払いはどうなんでしょう?

近藤「足払いはキレイに相手を転がすことはできますが、自分の体重を載せれないのでコケてるのと同じですね。あまりダメージは無いです」

──なるほど、そりゃそうか。『ジュウドウズ』の足払いキャラもこかした後にストンピング仕掛けてましたしね。

近藤「総合格闘技やグラップリングの試合でも投げでKOってのはたまにあります。マットが畳であっても、相手が下から三角絞めを仕掛けてきたのに対して、受けている方が立ち上がり、そのままパワーボムのように下に叩きつけたら相手は半失神になって終わってましたね。ただ、そういうのはあんまりなくって、勝った方もびっくりする感じです」

──PRIDEとか見てても、「落とす」投げがキレイに決まるところ、そんな見たことないですもんね。

近藤「それと古流柔術にも危険な投げ技がありまして、関節を決めながら投げるんです。投げられないよう我慢しても関節を痛めるし、結局、投げられちゃう。肘を決めながら相手を顔面から地面に落とすんですが……これは実際に総合格闘技の試合で使った人がいて、相手は肘を脱臼してました」

──おお! じゃあ、「決まれば勝ち」みたいな必殺技的な投げは実際あるんですね!

近藤「そうなんですけど……必殺技というには見た目が地味なんですよね、この技……」

──ウン、ですね……。

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