【日本vs台湾】外国人観光客の争奪戦が勃発…観光インフラの遅れが致命傷に

多くの観光客が押し寄せる九フン(撮影/小川裕夫)

 昨年、訪日外国人が1300万人を突破した。これは過去最高の数で、2兆円以上の経済効果があったといわれる。

 訪日外国人観光客による経済効果は2015年に入ってからも堅調で、2月には春節に合わせた中国人観光客の“爆買い”が百貨店の売上を急伸させた。さらに、4月中旬にはタイ暦の正月にあたるソンクラーンで訪日するタイ人観光客の増加が見込まれている。

 こうした外国人観光客が増加した背景には、日本政府が数年前からアジア・東南アジア諸国へのビザ要件を緩和していることが挙げられる。今後、日本の観光業界は東南アジア観光客の取り込みが課題となるだろう。

 官民が連携した訪日外国人観光客の取り込みは今のところ順調に進んでいるが、お隣・中華民国(台湾)と比べると、後れをとっている部分がいくつかある。

 訪台外国人観光客は年間約1000万人。数字だけ見れば、訪日外国人観光客の方が勝っているが、そもそも台湾と日本とでは観光インフラやコンテンツの充実度で格段に差がある。

 国際空港の数は圧倒的に日本が多く、また東京・横浜・京都・大阪・札幌など魅力的な観光都市が揃っている。

中国人に人気の台湾

 それにも関わらず、訪台外国人観光客数は訪日外国人観光客数に肉薄している。その理由は何なのか? ある旅行代理店の幹部はこう話す。

「訪台外国人観光客の大半は、中国本土から来ている中国人です。同じ中国語が通じる上に、台湾は治安がいいことも人気の理由。治安に関しては日本の方が上ですが、気になるレベルではないのです。日本は円安とはいえ、まだ物価が高い。中国人にとって、気軽に行ける“海外”ということで、台湾は人気があるのです」

 中国と台湾は歴史的な経緯から複雑な関係にあるが、2008年に中国人団体旅行が解禁され、2011年には個人旅行も解禁された。それに伴い中国人観光客が爆発的に増加。2014年の訪台外国人観光客を国別で見ると、香港やマカオも含めて中国からが大半を占める。台湾にとって中国人観光客はお得意様なのである。

「台湾も外国人観光客の誘致には力を入れています。もともと台湾では、3~4カ国語を話せる人は決して珍しくなかったし、行政も外国人観光客を取り込むために空港や地下鉄のほかにも街のいたるところで英語・日本語・中国語・ハングル(韓国語)の表記を進めています」(前出・旅行代理店幹部)

台北駅のMRTホーム。音声や路線図には多言語による案内がなされている
淡水駅前にはSLが展示されている。淡水のSL広場はメジャーな観光スポットとは言い難いが、それでも3カ国語による説明がなされている

 台湾では、台北市内の主要交通機関となっているMRTでも早々に4カ国語表記を導入。観光施設でも多言語表記は一般的だ。北投温泉や「千と千尋の神隠し」の舞台になったともいわれる九份など、外国人が多く訪れるメジャーな観光地にいたってはタイ語やクメール語(カンボジア語)などの表記まである。

 こうした外国人観光客取り込み策によって、台湾は外国人観光客の誘致に成功し、観光産業は拡大。同時に飲食業をはじめ土産品の加工業・製造業も活性化している。

 日本では外客誘致法が制定されて、第一次安倍内閣では公共交通機関における多言語表記を進めた。少しずつ多言語表記は進んではいるものの、いまだ成田や羽田、関空などの外国人が利用する施設周辺に限定されている。

 台湾と比べると、日本の多言語表記は序の口レベルなのである。それだけに現状に甘んじていては、中国人観光客を台湾にごっそり奪い取られる危険性も秘めている。それは、日本の景気を停滞させる一因にもなるだろう。

 このままでは政府が掲げる年間目標の2000万人をクリアするのは難しい。2020年まで、あと5年。果たして年間の訪日外国人観光客を2000万人まで増やすことはできるのか?

(取材・文/小川裕夫)

ピックアップ PR 
ランキング
総合
社会