直木賞候補6回 実力派作家の新境地――馳星周インタビュー(1) (2/2ページ)
なぜクビにならないのか?というところからキャラクターの造形を始めました。
それで、「本当は東大卒のスーパーキャリアで、将来は警察庁長官になるんじゃないかとまで言われていたのに、ある事件がきっかけでおかしくなってしまった」という設定ができあがった。それなら、公安部を舞台にすることで、様々な機密情報に触れられるためクビにすることもできずに片隅の部署に追いやられているという説明がつくだろうと。
だから、今までにないキャラクターを作ってやろうというような意図はなくて、小説の中でリアリティを出すためにどうしたらいいかと考えた結果ですね。
――正気を失っているようにしか見えないのに、時折恐ろしく頭が切れる場面があって「本当の顔」はどちらなのかと気になって読み進めました。
馳:そこが狙いですよね。椿については「本当におかしいのか、おかしいふりをしているだけなのか、どっちなんだろう」と思わせたまま終わろうと思っていました。
僕はこの小説に限らず、バシッときれいに着地する小説はあまり好きじゃないんです。もちろん、ストーリーに起承転結があって最後にオチがあって、ということは考えるんですけど、オチがついた後に「でもこれってやっぱり……」と読者に想像させるような小説がいい小説だと思っているので、この小説もそういう風に書いていますし、一番の狙いでした。
――そういう目で読むと、疑心暗鬼になってしまう仕掛けがこの小説には散りばめられていますね。
馳:本当に文字通りのことが起こっているんだろうか、と読者が疑念をかきたてられるように話を進めていこうと思っていたので、そう思ってもらえたのなら成功したのかもしれませんね。
・第2回 連載小説を同時に5本……人気作家の生活 につづく