恐怖体験は引き継がれる。ホロコーストの生存者の子孫の遺伝子にトラウマが伝達されていることが判明(米研究)
[画像を見る]
ナチス政権によるホロコーストでは、600万人のユダヤ人が犠牲になったと言われている。この悲劇に直面した人たちが深い心の傷を負ったことは想像に難くない。
さらに恐ろしいことは、ホロコーストから生き残った人の子孫も、両親から遺伝子を受け継ぐことで、この悲劇のトラウマから間接的な影響を受けているかもしれないということだ。
トラウマ的な出来事が人の遺伝子を改変し、世代を超えて受け継がれる可能性は、アメリカの病院における調査から明らかとなった。
ここではナチス政権で迫害を受けた両親を持つ子供は、ホロコースト体験に起因してストレス障害を発症する可能性が高いことが判明している。
・個人の体験が子供の遺伝子に影響
研究では、第二次世界大戦中に強制収容所に収監され拷問を受けた、あるいは隠れて暮らすことを強いられた犠牲者32名の子供が対象となった。
ニューヨークにあるマウントサイナイ病院で研究を主導したレイチェル・イェフダ博士は、「子供たちの遺伝子変異は、両親のホロコースト体験に起因するとしか考えられません」と語る。
研究は、ある個人の経験が子孫の遺伝子に影響する「後成的遺伝」が、子供の発達において大きな役割を果たしている可能性を示唆している。
[画像を見る]
photo by Pixabay
・本当に個人の経験が子に受け継がれるのか?
DNAが変化しないということは科学者の間で広く知られているが、個人のライフスタイルや習慣に起因する化学的タグがDNAに付着し、小さな違いを生み出すことはある。
こうしたタグが個人の子供に現れているのならば、喫煙、ダイエット、あるいはストレスなどの要因が将来の世代に影響しうるということだ。ただし、ほとんどの科学者が遺伝的特性はDNAに含まれた遺伝子を通してのみ獲得されると考えているため、この説は論争の最中だ。
本研究では、生存者と子供の同じ遺伝子上に他の対照群には見られなかった化学的タグが発見されている。
研究チームは臨床試験によって、子供たちがこのタグを別の場所で獲得したわけではないと結論しているが、これが親から子へ伝達された仕組みについては不明だ。
[画像を見る]
photo by Pixabay
・るストレス関連遺伝子への影響
イェフダ博士のチームが観察したのは、ホロコースト生存者のストレスホルモン、コルチゾールである。仮にトラウマの遺伝効果があるのであれば、人が環境に対応する方法を左右するストレス関連遺伝子に現れると考えられたからだ。
すると特に母親が心的外傷後ストレス障害を発症している場合、子供のコルチゾールレベルが低いことが判明した。しかし、両親とは異なり、コルチゾール破壊酵素のレベルは通常よりも高かった。
研究チームはこうした適応は子宮の中で起きたと考えている。通常、胎盤内には高濃度のコルチゾール破壊酵素が見られる。
母親から送られるコルチゾールから胎児を守るためである。妊娠した生存者の胎盤内の酵素濃度が低い場合、胎児は大量のコルチゾールに曝されることになる。このため、自分を守るために破壊酵素のレベルが上昇するというわけだ。
[画像を見る]
photo by Pixabay
「私たちが知る限り、今回の結果は、実際に体験した両親とその子孫双方において後成的遺伝を起こす、予想ストレス効果が伝達される最初の事例を提示しています。まだいろいろ考察中ですが、私たちが環境に適応する仕組みや、環境への柔軟性を後世に伝える仕組みについて多くの重要なことが学べるでしょう」
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの名誉教授マーカス・ペンブリー氏は、有用な進展を成し遂げたと評価しており、「前世代の経験に対して次の世代が見せる反応の仕方については、ようやく理解が始まったばかりだ」とコメントしている。
なお、先行研究では、1940年代の食料不足を経験したドイツ人女性たちの子供は、統合失調症を発症するリスクが高いことが明らかにされている。
別の研究では、父親が思春期前に喫煙を始めている場合、息子の出生時の体重が重い傾向にあることが示唆された。
via:biologicalpsychiatryjournal・Theguardian・dailymail・原文翻訳:hiroching
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』