米大統領選がプロレス化!? 最有力候補トランプはまるで「バディ・ロジャース2世」
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プロレス団体が、世界最大の国家の政治を牛耳るかもしれないと言ったら、どのような反響が返ってくるだろうか。また澤田は何言ってるんだと怒られるかもしれない。
だが、来年の大統領選挙で有力候補と言われている、共和党のドナルド・トランプ氏はプロレスラーでもある。いや、自身で試合したことはないのだが、代理のレスラーを立ててWWEのCEOビンス・マクマホンと断髪マッチを行ったことがある。
2013年には『WWE』殿堂入りも果たした。ちなみにこの時、“人間発電所”の異名を持つあのブルーノ・サンマルチノも、一緒に殿堂に迎えられている。
そのためか、トランプ氏は度々物凄い発言をする。
「私は神が選んだ偉大な大統領になるだろう」という言葉は民主党の支持の強い地域の市民を呆れさせ、「メキシコ人はレイプ犯」という言葉はヒスパニックの怒りを買った。
「アメリカのお陰で日本は生き長らえている」という言葉は、我々日本人の神経を逆撫でさせた。
ところが、このような人物がどういうわけか支持率が高い。その数字は、民主党最有力候補と言われるヒラリー・クリントン氏に肉薄している。
いや、あまり深く考える必要はないかもしれない。トランプ氏は恐らく、「プロレス的な発言は大衆の人気を集める」ということを知っているのだ。よく考えれば、言動や経歴など、彼によく似たレスラーがかつて『WWE』のリングで戦っていた。
そのレスラーの名は、バディ・ロジャース。トランプ氏は、ロジャースのスタイルを模倣しているように見てとれる。
■ 高慢ちきなエスタブリッシュメント

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アメリカのプロレス団体『WWE』はかつて、『WWF』という名称だった。そのまた前の名称は『WWWF』だ。そしてその『WWWF』の初代チャンピオンが、バディ・ロジャースなのだ。
ロジャースのスタイルを一言で言えば、“高慢ちきなエスタブリッシュメント”である。腐るほどの金を持っている、アメリカ最古参移民の白人。だからロジャースは、労働者や後発移民、有色人種を見下す発言を繰り返す。
このレスラーについて、ライターの柳澤健氏が著作『1964年のジャイアント馬場』において興味深い考証をしている。
<ロジャースは、誰もが心の中に秘めつつも、決して表に出すことのできない“反社会的で幼児的な自己愛願望”をリング上で全面的に解放した。
大人の世界では決して通用せず、病気としか思えないような子供っぽいナルシシズムが、プロレスのリング上では全開となる。だからこそロジャースは真面目な大人たちから罵声を浴びつつ、若い女性や子供たちから熱狂的な支持を集めたのである。>
ロジャースの言動も一種の“炎上商法”と言えるかもしれない。だが、プロレスというのは、“歓声”と“罵声”はまったく同じ意味合いを持つ。いいレスラーは“大衆から注目されるレスラー”であり、人々の関心を集めることができない三流レスラーには、その“罵声”すら飛ばない。
そして人々の心の中には、「すべてのしがらみから解放されたい」という密かな願望がある。口に出さないまでも、誰しもがサディスティックで差別的な感情を少なからず抱いている。もちろんそれを口にしたら最後、その人の社会的信用は跡形もなく吹っ飛んでしまう。
だが、それを自由に叫ぶことのできる場所がこの世に存在したら? SNSで著名人が良識を疑われるレベルの問題発言をし、またそれを積極的に支持するネットユーザーが一定数いるのは、そういう理屈だ。
■ 歓声と罵声
ロジャースは“しがらみとは無縁の男”を演じることで、毎回のように試合会場に万単位の観客を集めた。彼が本当に大衆から冷たい目で見られていたのなら、番号のついた椅子、つまり指定席はどれも無人だったはずだ。“憎むべき男”の姿格好を、わざわざ金を出して見る人間はいない。
観客の誰しもが、実は心のどこかでロジャースに憧れている。
「どうせこの世に生まれたのなら、他人に物怖じしないエスタブリッシュメントになりたい。なぜ自分はそうならなかったんだ。」
そこからくる嫉妬が、ロジャースへのブーイングを生み出した。そういう意味でも、“歓声”と“罵声”は同質なのだ。
トランプ氏は、『WWE』に接することで、そうした効果を呼ぶプロレス的パフォーマンスを学びとった。いや、もしかしたら彼自身ロジャースの試合を観たことがあるのかもしれない。こればかりは裏付ける資料がないので何とも言えないが、1946年生まれのトランプ氏がロジャースの試合を観戦していたとしても、何の不思議もない。現役時代のロジャースの主戦場は東海岸地域で、トランプ氏はニューヨーク出身だ。
ちなみに、ロジャースの両親はドイツからの移民、トランプ氏の父方も同じドイツ系である。彼らは決してエスタブリッシュメントすなわち先発移民ではないのだ。
■ ショーと化す選挙

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前回のアメリカ大統領選挙でよく聞かれた単語が“better”だった。
前々回の選挙では“change”という言葉を掲げ、驚異的な支持を広げたバラク・オバマ氏。だがその熱は4年のうちにすっかり冷め、オバマ政治の失点が目立つようになってしまった。人は艶よりも汚れに目が行きがちだ。しかしだからといって、オバマ氏以上の大統領候補者はいない。2012年の民主党支持者にとって、オバマ氏は“better”な人物だった。
それは共和党でも同じだ。大統領選への立候補を表明した人物は多かったものの、共和党員の誰しもが頷くような候補者はいなかった。結局、一番“better”な存在と認識されたミット・ロムニー氏が共和党候補として本選を戦う。
大統領選挙のマンネリ化が訪れたのだ。もっとも、政治選挙にマンネリか刺激的か、という要素を求めること自体がおかしな話なのだが、それでも大衆は候補者の宣言する公約よりも“キャラクター面でのインパクト”を求めるようになっている。
そして、もう一つ。アメリカ大統領選挙というのは、党の指名候補者に選ばれさえすれば本選で一定数の票が約束されている。この国の大統領選は直接選挙ではなく、「市民がどの党の選挙人を指名するか」という間接選挙だ。
だから西海岸の州で民主党の選挙人が選ばれるのは確実だし、逆に南部では共和党だ。「ロムニーは嫌いだけど、党は彼を選んだ。だから私はロムニーに投票するしかない。」という共和党支持の市民が、前回の選挙では相次いだ。
つまり、どんな“反社会的な失言王”でも本選では必ず善戦することができるのだ。それが世界最大の国家の大統領選挙である。
【参考・画像】
※ 柳澤 健(2014)『1964年のジャイアント馬場』(双葉社)
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