認知症の老人が死の間際に… 音楽が起こした奇跡 (2/2ページ)

新刊JP

音楽を聴くだけで、彼の気持ちが晴れやかになっていくのがわかった佐藤氏は、「一緒に唄わない?」と、ハーブを誘ってみた。しかし、ハーブの答えは「だめ。もう唄えない」だった。
 ハーブと出会ってから2カ月経った10月初旬。ハーブは、ほとんど話すこともなくなり、言葉を認識する能力さえ失っていた。そんな状態でも昔の曲だけは覚えていて、歌が終わると、必ず拍手をした。音楽によって彼が記憶をとりもどすようなこともたびたびあったそうだ。
そんなハーブに、ある事件が起こる。10月下旬に訪れたとき、施設はとんでもない騒ぎだった。車椅子に乗ったハーブが、廊下をものすごい勢いで行ったり来たりし、暴れまわって興奮して手がつけられない状態だった。別人のようになってしまっていたのだ。

 次の週、ハーブの元を訪れ、ジャズを何曲か弾いたあと、最後に「What a wonderful World」を唄い、時間がきたので佐藤氏が帰ろうとしたとき、「君のために唄うよ」と、後ろからハーブの声がした。振り返ると、人懐っこい彼の笑顔があった。
 最後のセッションから2日後、ハーブが亡くなったという知らせを受けた。音楽療法でハーブが唄ったことを彼の娘に伝えた。その曲は昔、ハーブがよく唄っていた曲だったという。ハーブが最後、ジャズシンガーとして本来の姿を取り戻せたことが、娘にとって救いとなった。

 なぜ、ハーブは突然唄おうと思ったのか。アルツハイマーがあったにもかかわらず、自分の死が近いことを無意識のうちに悟ったのか。たとえ、認知症の患者であっても、本来の自分を取り戻せるし、メッセージを発することができる可能性があるのかもしれない。

 本書には10編の物語が収録されている。「死」について、「生きること」について、考えるきっかけとなる1冊だ。誰もがいつかは迎える自分の最期。そのとき、あなたが聴きたい曲はなんだろうか。
(新刊JP編集部)

「認知症の老人が死の間際に… 音楽が起こした奇跡」のページです。デイリーニュースオンラインは、社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る