実写版『進撃の巨人』後篇が意外と悪くない…前編に伏線が

デイリーニュースオンライン

映画『進撃の巨人』公式サイトより
映画『進撃の巨人』公式サイトより

 実写版「進撃の巨人」後篇を見に行きました。

 前篇がアレだったものですから、後篇はどんな大惨事かと覚悟を決めて見に行ったのですが……。あれぇー、意外と良かったです。(以下ネタバレあり)

 前篇の最大のネックは「人類の命運を賭けて一大作戦に挑む調査兵団がバカすぎる」ことでした。周囲を巨人が徘徊する超危険地帯での作業中に、作業するでもなく、見張りに付くでもなく、暗がりでいんぐりもんぐりを始めるバカ兵士どもには愕然としてしまったものです。

前編の最大のネックが伏線に

 しかし、以前の記事で僕は、ややリップサービス気味に、「登場人物のバカさも含めて後半の伏線という可能性は残されている」と書きました。しかし、驚いたことに、これが本当に伏線(?)だったのです。政府の狙いは作戦を成功させて人類を救出することではなく、「勇気ある連中を無駄死にさせて、羊のような国民だけを残す」ことでした。

 そう言われると、なるほど納得です。勇気があっても練度が低ければバカ集団になるのは自明の理で、バカがバカなことをして窮地に陥るのも自然の摂理。全部政府の思惑通りだったんですね……。前篇で一番のネックだったこの問題が解消されたので、映画全体に対するイメージが大分変わりました。まあ、それにしても前篇のバカ描写も、もう少し描きようがあったと思うんですが……。バカにも色々種類があると思うんですが、組織として未熟だとか情熱が先走って混乱を招き……とかではなくて、単純にIQが低かったので……。

 というか、そもそも主人公たちは歴戦の兵である調査兵団などではなく、壁を修復するための寄せ集めの作業員なんですよね。なので練度が低いのも仕方ないのですが、彼らに調査兵団のエンブレムを背負わせてしまったのも問題かと。そのため原作の調査兵団のイメージで彼らを見てしまい、「調査兵団なのにバカすぎる」と思われてしまったのもあるでしょう。後篇では「本物の」調査兵団が登場するため、この誤解も解消されます。エレンたちが作業員という設定では売れない、という事情も分かりますが、かといって調査兵団のコスプレをさせるのは意味が分からないし、混乱の元でした。

 また、前篇では違和感のあったハンジさん、シキシマさんの変なキャラクターも後篇で一本筋が通った感じがあります。ハンジさんは一般的には概ね受け入れられていたようですが、僕的にはあまりにバカすぎてちょっとダメでした。しかし、後篇ではハンジさんのバカが一段と加速したことで一周回ってアリとなった。アサルトライフルの銃口を向けられているのに、「うわー! 大戦前の銃だー!! スゴイー!」と飛び付く描写のバカさは、一線を突破して爽快感が出ていました。ライフルを構えてた兵士たちも、「えー、この人なにー??」みたいな感じで呆然としてたもん。

 シキシマさんも前篇では異様に芝居がかったおかしい人だったのですが、後篇に入って、破滅思想(エリート主義?)を振りかざす反政府テロリストだと判明し、「ああ、このくらいおかしなことを考える人なら、そりゃ普段からおかしいよな」とすごく納得できました。原作のリヴァイのイメージで、職務においては頼れる実力者、みたいに思ってたから、そのミスマッチでおかしな人に見えてしまったわけで、やばいテロリストなら全然納得できます。

 壁を全て破壊して現行制度を転覆させようとするシキシマさんですが、僕は彼が何をしたいのか良く分かりませんでした。破壊して、その後どうすんの?? ただ、映画の最後で、あの国が実験中の箱庭であることが示されたので、「実験装置自体を破壊して観測者の意図に逆らう」という意味だと理解することにしました(この解釈もやや怪しいけど)。でも、それならそれで、事情をちゃんと説明しないと、そりゃエレンたちは納得しないですよね。あの人、なんであれでエレンたちを説得できると思ってたんだろう……。

 個人的にとても良かったと思うのが、エレン巨人とシキシマ巨人によるプロレスシーンで、ここはBGMのそれっぽさも手伝って完全に怪獣映画になっていました。樋口監督の得意なフィールドで勝負しており、自分の武器を活かそうとする意志を感じます。また、実写版の中で一応の謎解きもなされており、原作をベースにしながらも自分たちならではの作品を作ろうという気概も感じました。すると、必然的に原作からは乖離してしまうのですが、それでも単純な「巨人vs人間」の構図にせず、敵としての人間の存在を強調した辺りには原作へのリスペクトも感じます。原作のコアなところのニュアンスを汲み取ろうという意志はちゃんと感じました。

 一方で、どうかと思う点は後篇にも色々とあって、シキシマさんは人間の時はあんなに強かったのに巨人化したら突然隙だらけになってみんなにザクザク斬られるし、士官の巨人は適当に他の箇所に穴を開けるだけで主人公たちの作戦は崩壊するのに何故か爆弾に固執するし、政府と反政府テロリストが勝手に共倒れして棚からぼた餅的に主人公たちが生き残るラストも肩透かし感があります。シキシマさんはせっかくエレンの兄なのだから(たぶん)、敵対の中にも仄かな家族愛とか匂わせれば、「エレンを守った」感じが出て、棚からぼた餅感も軽減されるのではないかと思うのですが……。「シキシマの中の壁」が、エレンを守った理由(?)に当たると思うのだけど、これ、僕には全く意味が分からなかった。シキシマさんの壁って何?? 政府なの??

 最後の映像から判断するに、エレンたちは壁の外へと脱出したらしく、「壁の中での押さえつけられた人生よりも、危険でも壁の外での自由を生きるぜ!」というのが本作のテーマかと思われるのですが、その割にやっていることは壁の修復で、この辺りにもちぐはぐさを感じます。主人公たちは現状から脱却せんとしているのに、やってること自体は現状維持という。そりゃ他者のことを考えたら現実的にはそうするしかないんだろうけど、なんかちぐはぐ。政府の思惑とも違う、シキシマの狙いとも違う、カタルシスある第三の選択を見せてくれると良かったんですけどね。

 というわけで総評としては、「素晴らしくはないけど悪くもない」という感じでした。原作の存在感にびびらず、オリジナルの作品を作ろうとした姿勢は評価したいです。ところで、巨人は進化した人類だという説が劇中で出てきましたが、巨人を一本背負いし、腕力で建築物を倒壊させたあの力持ちデブも、別の形で進化した人類なのではなかろうか……。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

「実写版『進撃の巨人』後篇が意外と悪くない…前編に伏線が」のページです。デイリーニュースオンラインは、漫画映画連載などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧