「イスラム国」の台頭許した”リーダー不在”と国連事務総長の不甲斐なさ
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イスラム国
今回の「イスラム国」を中心とした各国の動き。その動きはローマ法王が「第三次世界大戦はすでに始まっている」との言葉が示すように複雑怪奇な構造を放っている。
トルコ軍によるロシア爆撃機の撃墜。そして、ロシア軍によるトルコ物資輸送列車の空爆、とその争いは周辺各国に飛び火し、事態はまさに混沌を迎えつつある。しかも、一連の流れに対してアサド政権を支持するそのロシアの姿勢に疑惑の目が向けられるも、今度はトルコが「イスラム国」より大量の石油を密輸している可能性が指摘され、混乱は増すばかりだ。
そこに過激派組織アルカイダがイスラム国の幹部を狙って自爆テロを敢行し、アノニマスが「イスラム国」にサイバー攻撃を仕掛ける。もはや、国の対立ではなく、あらゆる組織がその思惑に駆られて動いているだけに何がどうなっているのか、その勢力図を把握するだけでも一苦労である。でも、なぜここまで事態は複雑になってしまったのだろうか。
まずここで一つ指摘できることがある。それは事態の収集を取りまとめるリーダーが不在であるということ。結局、話をまとめる人間がいないので、各国が各々のスタンスで臨むことになる。パリ同時多発テロ事件を受けたフランスが積極的な姿勢を見せるのも国民感情を背景に考えれば当然なのだが、とは言っても、欧州各国の足並みが揃っているとも思えないのも結局、リーダー不在の影響が大きいと言える。
そういう意味では、実は最大の機能不全に陥っている組織がある。それが国連だ。こうした危機的な状況に対し、ここまで存在感がないと最早致命的な感覚すら覚えるが、結局、今の常任理事国にしてもロシアや中国が独断専行かつ自国利益優先で動いている以上、やはり今の国連が世界を牽引するのは事実上不可能と感じてしまう。
イスラム世界にも求められる自浄能力
そして、もう一つ、この問題解決を積極的に取りまとめる必要がある牽引者がある。それがイスラム諸国の国々、もしくは宗教的指導者の方々である。実際、複雑に分派したイスラム教を取りまとめることは不可能に近いのかもしれない。しかし、イスラム国の台頭をここまで許したのも同じくイスラム教内部の問題でもあることは間違いないだろう。
逆に、イスラム教信者たちの中からこの問題を解決するための自浄能力がなければ、イスラム教はこのイスラム国の示す手法、つまり、排他的な危険思想を認めていると懸念されても仕方がないだろう。もちろん、イスラム国は莫大な軍事力と資金力を持っている。しかし、ここまで事態が複雑化してしまっている以上、そこは本質論に則ってまずはイスラム教内部としての決意を期待したいところだが、まぁ、言うは易しと言ったところでしょうか。
少なくとも国連にはより一層の行動力を期待したい。それが出来なければ事態はさらに複雑になり、ローマ法王の示す第三次世界大戦の可能性は更なる現実感を帯びていくような気がする。
平成12年(2000年)、当時、国連のアナン事務総長の呼び掛けで千人以上の宗教者が集う「ミレニアム世界平和サミット」が開かれた。その時、閉会式を務めた黒住教の教主は、天皇のお言葉をお借りしてこう表現したという。「自ら正しいと思う者が一歩身を引くことができればすべては丸くおさまる」。
私も又聞きで頂戴した言葉なので、その言葉の正確性は分からないが、少なくとも、この言葉の意味そのものこそ、今の世にこそふさわしい内容だと痛切に感じるがどうだろうか。
同時にパン・ギムン国連事務総長にも、このアナン事務総長にならい単なる個別の意見表明ではなく、実行動として強く示してもらいたいと願わんばかりである。
著者プロフィール
一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター
東條英利
日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、一般社団法人国際教養振興協会を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。
公式サイト/東條英利 公式サイト