【未来探訪#003】教えて、新保先生!ターミネーターの脅威と「ロボット法」
※ 前回の未来探訪はこちら
【未来探訪#002】最新AIの基礎知識②山川先生、今ドキの人工知能ってどうやって作るんですか?
http://nge.jp/2015/11/24/post-123686
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大人気映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の公開された1989年から26年の時を経て、“2015年10月21日”を迎えた。『自動で靴紐が締まるスニーカー』や宙に浮くスケボー『ホバーボード』など、夢の様なアイテムが実現した。
もっと身近なところでは、自動車の発展も著しい。東京モーターショー 2015では、自動運転車をはじめとした、未来を彩る最先端モビリティーが数多く展示されるなど、かつて思い描いた“未来”がいよいよ現実になろうとしている。
さて、更なる未来はどうだろうか? 前述の自動運転はもちろん、ロボットがスーパーでレジや棚卸しを担い、医療や教育の現場を支え、家では掃除や洗濯あるいは料理を完璧にこなしているかもしれない。人工知能やロボットの発達には、期待が膨らむばかりだ。我々の生活をより豊かにしてくれる。
しかし、ロボット社会何でもアリなのか? この分野の発達で人は職を奪われるかもしれないし、逆にコントロールされるかもしれない。
自動運転車が事故を起こしたら誰の責任? ロボット社会は安全なの? もしかしたら『ターミネーター』のような世界とは言わないまでも、人に危害を与えるようなことも起こりうるかも。
そんな、未来への期待と不安を、今後の道筋を踏まえ明らかにするため、『ロボット法学会』設立準備研究会発起人のひとりである、慶應義塾大学 総合政策学部の新保 史生教授と同大SFC研究所上席所員 赤坂 亮太氏に、我々をとりまくロボット社会と『ロボット法』について話を伺った。
■ なぜ今「ロボット法」が必要なのか

-なぜ今『ロボット法』が必要なんでしょうか?
新保先生、
<自律型ロボットなどの、新しいロボット関連技術を社会で普及させる上での現状の問題点は、必要な規範が整備されていないことです。
ロボットは、その汎用性を考えると、製造物責任の範疇だけで考えられるものではありません。
とはいえ、ロボットの使用を規制するのではなく、普及を促進するために必要なルールを決めていく、ということのほうが重要だと考えています。>
■ 「ロボット法学会」設立準備研究会の意義
-『ロボット法学会』設立準備研究会の意義を教えて下さい。
新保先生、
<新しい問題には、その場しのぎでルールをケースバイケースに検討しがちです。
しかし、そういった場当たり的な対応を避け、技術と法学が一体化した普遍的な理念や、必要なルールの基本となる原則を決めていく事が必要と考えて『ロボット法学会』設立準備研究会を開催しました。
アイザック・アシモフの『ロボット工学三原則』は発想のひとつでしかなく、ルール作りの基礎となる原則にはなり得ません。
今回発表した『ロボット法 新8原則』は、“とりあえず”議論のベースを設定し、公開しました。ルール作りの基礎となる原則の案としてたたき台の、更に一つ手前の段階のものです。つまり、今後検討が必要になる議論のベースを提言しました。
この8原則はOECD(経済協力開発機構)によるプライバシー・ガイドライン『OECD 8原則』を参考にしています。>
-何故『OECD 8原則』を参考にしたのでしょうか?
新保先生、
<ロボットは普及するほどにプライバシーに関わってきます。
まず、IoT(モノのインターネット)の普及を考えてみてください。例えば、ルンバのようなロボット掃除機が普及する事を気にする人はいないかもしれませんが、ロボット掃除機の通信機能が活用され情報がネットワーク上に収集される、それぞれの使用状況や周辺環境に関する情報を収集し、利用環境の特性に応じて効率的な稼働を個体に配信する、といった機能が活用されるとすると、情報管理の問題にもなります。
「ロボットの普及に向けた情報取扱のルールを決めるべき」というのは、データとして収集される情報の取り扱いルールを、整備する必要性から来た発想です。>
赤坂先生、
<機械工学と情報工学の結節点にあるものがロボットの発展と普及であり、両方の領域に影響が発生する事が非常にユニークな問題です。>
■ 人の敵は人?「ターミネーター」の脅威はリアルか
-映画『ターミネーター』のようなロボットの脅威は現実的なものなのでしょうか?
新保先生、
<映画の世界のように、人工知能が人間の能力を超えることで、勝手に人類を攻撃し人間を排除し出す世界観も、相当蓋然性が低い懸念と考えています。
むしろ最大かつ実際の脅威は、それを利用する人が悪意を持ち、人を害するためにロボットや人工知能を活用することです。これを抑止するために『ロボット法』による規制が必要になります。
既に、こういった懸念が顕在化する土壌は存在し、活用可能です。
例えば、コンピュータ・ウィルスは、本来は便利にPCを利用するためのアプリケーションを、悪意ある動作をさせるために人間が開発してプログラムしたものです。
“コンピュータに感染”するだけであっても、実際に人間に危害を与える動作をさせることも可能なわけで、IoT化が進む中でこういった懸念を軽減するためにも、規制が必要なんです。>
■ 人はロボットに管理されるようになるのか?
-未来のロボット社会では、人はロボットに管理されるようになってしまうのでしょうか?
新保先生、
<例えば、労務管理やレジ打ちなどは、ロボットが代替する時代が到来するでしょう。
ただ、ロボによる人の管理は、あまり行き届くと人を幸せにしません。大切なのは、人間がロボを管理することであり、ロボに人間が管理されることではありません。そのルールを柔軟性を持って決めていくことです。
例えば、空港のチェックインが完全自動化され、預け入れ荷物の“ちょっとした”重量オーバーがあるとチェックインが出来なくなりました。
人がやってくれるのなら、「まぁちょっとだから……」という理由で通してくれるのでしょうが、おかげで荷造りしたカバンを再度開けて重量調整をする始末。自動で管理される社会は意外と不便であったりします。
“完璧に管理・制御されていないから”こそ機能するものもあるわけで、ロボットに“完璧”に管理・制御させてはいけない、ということも考える必要があります。>
後編では、『ロボット法』と技術者の関係性や、ロボットが人間社会にもたらす変化とリスク、そして我が国日本が“ロボット立国”で世界をリードしていくために必要な条件について深掘りする。
【取材協力】
※ 新保 史生 – 慶應義塾大学総合政策学部
『ロボット法学会』設立準備研究会、発起人の一人。
専門は、憲法、情報法。ネットワーク社会における法律問題を研究。現在は慶應義塾大学総合政策学部で教授を、経済協力開発機構(OECD)では『デジタル経済セキュリティ・プライバシー作業部会』副議長を務める。
※ 赤坂 亮太 – 慶應義塾大学SFC研究所
應義塾大学大学院メディアデザイン研究科KMD研究所リサーチャーにして、同大SFC研究所の上席所員。
新保氏に同じく『ロボット法学会』設立準備研究会、発起人の一人である。
【画像】
※ Supertrooper / Shutterstock