100点を目指すな!脳外科医が提唱する勝ち続けるための考え方
『勝ちつづけるチームをつくる勝負強さの脳科学 「ピットフォール」の壁を破れ!』(林成之著、朝日新聞出版)の著者は脳神経外科医。
しかも、競泳、女子サッカー、女子バレー、フィギュアスケート、柔道など、さまざまなスポーツの日本代表監督、チーム、選手を脳科学的指導でメダル獲得に導いてきたという実績を持っている人物です。
つまり本書ではそのようなキャリアを軸として、チームとメンバー個々の力を同時に伸ばすための組織論を、脳科学的な観点から展開しているわけです。
そして、その視点とともに、内容の方もなかなかにユニーク。
■はたして100点は満点なのか
たとえば著者は第1章「成果をあげるチームとは? 目的を達成する『勝負脳』のチーム理論」のなかで、ひとつの疑問を投げかけています。
それは、「はたして100点は満点なのか?」ということ。
たしかに日本では、100点満点を取ることが美徳とされており、100点を目指すことが当たり前のことのように思われています。
だから必然的に、「あと何点足りない」という「引き算思考」で物事を判断しようという考え方が定着してしまっているわけです。
しかし、このような考えで試合に臨んだとすると、「試合当日にようやく100点の状態に到達させることができた」「なんとか間に合った」というような考えが生まれてきてしまっても無理はありません。
そうなると、「試合をしながら強くなる」とか、「敵の想定外の実力を発揮する」といった、100点を超えていく力を発揮することができなってしまうわけです。でも、それでは意味がありません。
■意識のたるみが結果に影響する
また、ここには「人間の脳は、結果を達成すると無意識のうちに気持ちがたるむ」という現象も含まれてくるのだと、著者は脳科学的に指摘しています。
ゴール(終わり)を意識すると無意識のうちに気持ちがたるんでしまうので、気持ちと一体で機能する脳の働きまでが低下することに。だから結果的には、逆転負けをしてしまうというのです。
また同じ原理で、優勝したあとの脳のなかの気持ちのたるみによって、連続優勝することが難しくなることも考えられるとか。
「強いチームになかなか勝てない」とか、「相手が予想以上に強かったので負けた」という現象も、ここに原因があるようです。
■働き方にマッチングする考え方
だとすれば、本能的に気持ちがゆるむことをなんとかする必要があるでしょう。そのために、私たちはどうすればよいのでしょうか?
著者はこの問いについての解決策として、「人間の行動を決める脳の働き方にマッチングする考え方」を導入することを勧めています。
少しわかりにくいですが、つまりはこういうこと。
人間の考えは、脳のなかのいくつもの異なる機能を持った神経核の連合によって生まれるのだそうです。
そのことによって具体的になにが起こるかといえば、たとえば最初はチームメンバー同士の協力体制が悪かったとしても、繰り返し一緒に考えているうちに、変わっていくものがあるというのです。
すなわち、いつも「自分たちにはなにかが足りない、欠けている」と考えるのではなく、そのレベルがどんどん上がっていく「足し算思考」に進化していくということ。
■引き算思考から足し算思考へ!
このように考えれば、100点がいまの条件においての頂点であったとしても、そこから先は、100点は単なる通過点になるはずです。
そこで100点を満点とする「引き算思考」から「足し算思考」へと切り替えることが可能になるということ。
すると目指す目標は100点ではなく、120点、130点となっていく。だから、そこを目指すことによって、驚くようなパフォーマンスが可能になっていくわけです。
事実、強いチームや勝ち続けるチームの選手は、優勝して100点を取ったとしても、「自分たちには、まだまだ課題がある」と達成すべき目標を持っているものなのだとか。いつまでも舞い上がってはいないということです。
「いまはレベルが低くても、最後には誰にも追随を許さない高いレベルになってやる」と考えることによって、人に感動を与える。
そして人が感動してくれることに対して「同期発火」し、勝つ能力をさらに高め、連戦連勝できるすばらしい成果を見せてくれるというわけです。
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スポーツの最前線で選手たちを指導してきただけあり、話題の中心にあるのは選手たちのエピソードです。
しかしおわかりのとおり、ここに示された組織論はスポーツの世界だけではなく、あらゆるビジネスシーンにもそのままあてはまるはず。
だからこそ、特に組織のリーダーにとっては、読んでみる価値のある内容だといえそうです。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※林成之(2015)『勝ちつづけるチームをつくる勝負強さの脳科学 「ピットフォール」の壁を破れ!』朝日新聞出版