新連載【ツレが産後ウツになりまして】第1回:地獄!義父母との1ヶ月間共同生活<前編> (2/3ページ)
そんな数日が過ぎた、ある日。妻から、こんなことを言われた。
「オトンとオカンが、あなたのことをよく思ってないみたい。朝は起きるのが遅いし、かといってそこからネクタイを締めて仕事に行くでもない。あいつは何をしてるんだ、って」
ライターという仕事に始業も終業もない。あるのは締め切りだけだ。ケツさえ合えば、昼にやろうが夜中にやろうが、関係ない。しかし、そんな理屈は彼らには通用しなかった。
オトンとオカンは長崎県島原市で、目の前には有明海、背中には雲仙普賢岳という田舎で、魚屋を営んでいた。1尾何百円という商売をして、一人娘を大学にまで入れたのだ。彼らにとっての正義とは、早く起きて仕事に行くこと。
やっと授かった子宝、わが娘は2時間おきの授乳に疲労困憊している。なのにその亭主といったら、朝イチから子育てに参加もせず、仕事にも行かない。なんて野郎だ。こう映っていたのだろう。
日を追うごとに彼らとの壁を感じた僕の精神は悲鳴をあげ、それはじんましんとなって両腕、背中、両足……体中に現れた。
■40数年前、義父母を襲った「ある悲劇」とは?
オトンオカンと、昔から仲が悪かったわけではない。気軽に冗談も言い合えたし、些細なことからケンカまで始めてしまうほど仲はよかった。
それなのに、子どものお世話に来て以来、特にオカンはギスギスしている。どこか取り憑かれたように、赤ちゃんの世話を焼いていた。
それには理由があった。
実は、妻にはお兄ちゃんがいた。“いた”というのも、生後3日で亡くなってしまったのだ。つまりオトンとオカンは、長男を3日で亡くした過去を持つ。自分に子ができてわかるが、これ以上の地獄はない。
その地獄から彼らは生還し、妻であるりえを出産。そのりえももう四十路。もはや初孫を諦めたであろうころに、わが娘が懐妊。しかも男の子だという。だから彼らからすれば、亡くした息子が娘の体をつかって輪廻してきた。そんな感覚に囚われていたのかもしれない。
だからこそもう、必死になって世話をしていたのだ。だからこそ、朝イチに起きない僕が憎たらしかったのだ。