田中角栄 日本が酔いしれた親分力(9)番記者たちも田中のトリコに (2/2ページ)
「俺との関係において、特ダネは出さない。特落ちもさせない。ネタを出す時は全員の前でする。だから、安心して休め」
この田中の態度は、記者たちも評価していた。
記者の中には、ギリギリのところを突いてくる鋭い質問をする者もいたが、田中もまた、それを実に巧妙にかわすのだった。
田中はこの記者たちも大事にして、酒の場を設けていた。記者たちとの宴席は、財界人や官僚相手の時のように料亭ではなく、すき焼き屋を使った。
サービス精神が旺盛な田中は、記者たちに「俺がすき焼きを作ってやる」といって振る舞おうとした。が、田中が作るすき焼きは塩辛くなってしまって、みんなの口に合わない。そのため、記者たちは店の仲居に「大臣はここにいてください。私がやります」と言わせて、田中に作らせないよう仕向けたりもした。
記者たちと酒を飲む時は堅苦しいことなど気にせず、田中もくだけた調子で時の流行歌をアカペラで歌い出したりするなど、終始、和気あいあいと楽しく騒いでいた。
1年間、角栄の傍で仕えていた期間中、小長が怒られることは一度としてなかった。
また自分以外でも、誰かが怒鳴られるような場面に遭遇したこともなかった。仮に田中が叱る際には、ちゃんと相手以外の人たちを席から外させ、2人だけになってから叱ったという。
作家:大下英治