田中角栄 日本が酔いしれた親分力(14)久々の再会から秘書へ転身 (2/2ページ)
ボヤがなければ、君とは永久に会えなかったかもしれんな」
「そうですね‥‥」
田中が首を傾げた。
「しかし、なんでまた離婚などと?」
昭は、さすがに言いあぐねた。
東京に知り合い1人いない昭である。これまでの自分の苦しみを打ち明ける人すらなかった。親戚たちにも、これまでのいきさつは一切話していなかった。それだけでなく、親友の瀬下さだを始めとした、友人や知人たちとの交際すら断っていた。
ましてや田中に頼ることなど、まったく考えも及ばなかった。が、昭は問われるままに、包み隠さず打ち明けた。
「そうか‥‥」
田中は、ため息まじりに言った。
「しかし、もう一度よりを戻すことはできないのかなあ」
「主人も出て行けと言っておりますし、私も出ていく決心をしました。明後日にはあの家を出ます」
「覆水盆に返らず、だな‥‥」
田中は持っていた鞄から、便箋を取り出した。
「まあ、そこまで行ったら、仕方がないな」
田中は、便箋に何やら書き始めた。
「これをご主人に渡しなさい」
昭は夫に会い、書いてある内容を知らぬまま、その手紙を手渡した。
夫は田中の手紙を読むと、離婚を了承した。
その年の10月の選挙で、田中は6万2788票を取り、初めてトップ当選を果たした。
昭と共に食事をしていた田中は、満面に笑みをたたえながら誘った。
「俺の秘書として、働いてみるつもりはないか」
待遇も、若い女性としては破格であった。当時、秘書の給料は一律に1万9800円であったが、それに200円足した2万円にしてもらったのだ。
作家:大下英治