政府の労働政策の切り札”プレミアムフライデー”の謎|やまもといちろうコラム

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 山本一郎(やまもといちろう)です。好きな時間で好きな仕事をやる生活を20年以上やった結果、43歳のいまでも忙しいと週95時間働いていたりします。いい歳して、いったい私は何をしているのでしょう。

 そんな私の眉毛が激しく動くようなニュースがやってまいりました。

月末の金曜は午後3時退社 個人消費喚起へ「プレミアムフライデー」構想

 あの……。何でみんな制度的に一斉に休まなければならないのでしょう。別にそれがダメだ、というわけではないのですが、ほかにやるべきことがあると思うんですよ。それこそブラック企業、ブラックバイト対策のような、基本的な労働法さえも守らないような事業者に対して、強い制裁が施せるだけで、この政策が求めるような個人消費喚起に繋がるような座組は簡単に用意できるのではないか? と思うわけです。 

 逆に言えば、そういう超過労働を強いるような企業姿勢を温存したい別の何かがあるのではないかとか、長時間働く国家公務員は自分たちとしては働くのが当たり前だ、という何か別の常識で動いている部分があるのだとすれば、それはむしろ霞が関で働いている人たちがもっときちんと休めるような座組を考えてみるほうがいいんじゃないかとさえ思います。たぶん、日本で一番超真面目に働いている人たちでできている組織が日本の中央官庁です。もしもこの「プレミアムフライデー」ができたとして、本当に霞が関から蛍光灯は消えるのでしょうか。 

 さらに、長期の学生インターンに給料がきちんと払われていない問題や、大学卒業予定者への一括採用の問題など、労働と法律についてはかねてから様々な問題が指摘されています。本来であれば働く人たちを守るための仕組みである労働組合の組織率が下がり、上場企業でICT系を中心に奴隷的な労働時間を強いる文化が横行しているにもかかわらず、労働組合を蘇生しようとすると解雇勧告がなされるような、80年代ぐらいに横行した問題が垣間見えるわけです。

 恐らく必要なことは「日本人はもっと休め」ではなく「効率的に、的確に働け」とか「やばい仕事はきちんと断れ」などという、仕事や価値に対する合理性や、空気読まずの心ではないかと強く感じます。月一回、正規雇用の人が金曜早帰りしたところで、日本の経済全体が盛り上がるような消費喚起なんかするはずないじゃないですか。それでもそういう政策を案として掲げなければならないほど、誰かが「それは問題だ」というような尖った、でも合理的な政策が提言できないということでもあるのでしょう。普通、なにか会議があって「大臣。300兆の個人消費を360兆にするために、金曜早上がりする方針を打ち立てましょう」とか言われたら、その大臣が「馬鹿なのかな?」ときちんと反応できるぐらいのリテラシーが欲しいと思うんですよ。

■現実味のない施策

 また、経団連にしても、これを見て「おお、素晴らしい。金曜みんなが休めば経済効果が上がるはずだ。よし、プレミアムフライデーだ」「ですよねー」みたいなことを本気で考えているとしたら、明らかに集団催眠にかかってる状態だと思うんですよ、引田天功ですよ。早い時間に正社員が帰るようにして、そこにイベントを仕込んで消費喚起でって、追い込み漁みたいな話じゃないですか。どうしてこう、本来なら頭のいい人が集まっているはずの組織が出してくるアイデアって、全体的に馬鹿を煮詰めたような内容になってしまうのでしょう。

 日本の経済の問題点というのは、もちろんお金を稼いでいる層がお金を使いやすい勤労形態になっていないというところはあるのでしょうが、それは然るべき給料をしっかり払い、企業として労働時間を法定内で管理するようにしながら、なおそれでも足りないならプレミアムフライデーも考えるかってレベルだと思うんですよね。むしろ、金曜午後に激甚需要があったら、結局は無用な出勤やシフトを強いられる飲食店勤務などサービス業の負担になるだけでしょう。本来は、何曜日だろうが平準に休めるようにするべきで、需要を集中させることではないはずですが、どうなんでしょうか。

 なにぶん、政府や経団連が言っていることですから、彼らが率先して「超過勤務にならないようなマネジメントを貫徹できる組織にしよう」とか「労使一体となって、最低賃金の引き上げをしながら柔軟な雇用制度を実現しよう」みたいな話にはならないのは仕方ないと思います。彼ら自身が、成り立ちからして労働法違反上等でやってきたところはあるでしょうから。また、彼らの見えている先は正規雇用であって、この施策でしわ寄せのいくサービス業の負担は全く考えておらず、それならば育児しやすいような時短勤務や育休を男女平等に制定すればプレミアムフライデーよりみんな喜ぶだろとは思わないのでしょう。 

 年間60兆の個人需要喚起を狙って金曜半ドンにしよう、という発想が凄いですよ、これは。もしも私がどこかの勤め人だったら、金曜15時から副業入れてもっと儲けようとするんでしょうけどね。あーあ。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

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