一人の男との別れ:杉作J太郎「美しさ勉強講座」連載31 (2/3ページ)
が、そうした無欲が幸せを運ぶケースはこの世に少なくない。
ある日。
池浜はひとりの女性と知り合った。
「どうせカバかゴリラだろー」
「サンダ対ガイラじゃないかな」
「携帯の待ち受けをちらっと見たけど幽霊みたいな女だったぜ」
みたいな周囲の声と真逆に、その女性はかわいい女性であった。
「どうせふられるだろー」
「いや、もうふられてる」
「自殺するかもしれんな」
みたいな周囲の予想を裏切って、関係はとんとん拍子に進み、
「パイルダーーー、オーーーンッ!」
いつしか合体を果たしていた。
おめでとう、池浜くん。
偽善で言うのではない。
それほど池浜は女で苦労したのだ。
いや、今の時代、女と男の求めるものが微妙にずれている。素晴らしいパートナーと巡りあえることは素晴らしいことである。
だが。
池浜の顔色は沈み、みるみる元気がなくなっていった。やっぱり彼女は幽霊だったのだろうか。有名な怪談『牡丹燈籠』のように、幽霊にとりつかれた池浜はどんどん生気を吸い取られて、最後は絶命してしまうのだろうか。
と、思ったら、そうではなく、彼女からアイドル全般から足を洗うように要求されたと。そういう話なのである。
しばらく池浜は悩んでいたが、池浜は足を洗った。どっぷり頭の先までアイドルに浸っていると思われた池浜が、アイドル関連の私物をすべて処分した。売ったものもあったようだが、ほとんど捨てた。仕事も変えた。そして俺たちとの縁も、切った!
その後、ときどき俺たちと池浜はお茶をしたり、めしを喰ったりはしているが、以前とはなにかが違う。俺も変わったのかもしれないが。
とにかく、池浜はアイドルよりも彼女を選んだのだ。アイドルの応援よりも自分の恋愛を選んだのだ。
ま、当然の選択かもしれない。
当たり前のことかもしれない。
みんなそうして大人になるんだよと言うかもしれない。