【不朽の名作】妙な雰囲気がハマればクセになるかもしれない「キャバレー」 (2/2ページ)

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しかも、現実の世界には暴走族の組織に同じ名があったし。

 さて、この作品の珍妙な雰囲気を楽しむにはどうすればいいのか? ひとつ提案できる視聴方法がある。劇中では他のキャバレーに移籍しようとしたベーシストの指を滝川の子分が詰める場面があるのだが、その時俊一は「あんた人間じゃない」と言う。そこで滝川は「俺はヤクザなんだ」と返すのだ。という訳で、俊一を通し、人外魔境の世界を体感していると脳内変換すれば、この現実にはありえなさそうな空間も納得がいくかと。

 劇中で俊一は常に“人間”として関わろうしているため、裏社会にどっぷり漬かりすぎた他の登場人物には響かない。もう妖怪か神話の住人のように価値観が違っているのだ。初体験の相手である英子が、目の前で滝川と対立するヤクザに犯されているのに、ほぼ無反応なのもそのあたりの理由だろう。女まで縄張りの所有物や自身のメンツの要素として扱い、殺し合いにまで発展する世界が理解できないのだ。そして、そこで疑問を持って首を突っ込めば、自身もその世界の住人になってしまうか、死んでしまうことを無意識に感じている。だから何もしないのだ。かわりに俊一は、ジャズメンらしく、『レフト・アローン』の演奏で、その世界に対する、疑問や怒りを表現している。このあたりの演奏の変化は、俊一を気に入っている滝川が劇中でしきりに聞いてくるので、一応、重要部分であることは暗に示唆されてはいる。

 そうすると、終盤の滝川が単独で、関東連合総長(丹波哲郎)を襲撃するあたりのシーンも納得が行く。このシーンは、両サイドを警察の機動隊と関東連合の組員が囲んでいるのに、誰も止めに入らないのだ。雰囲気の良さだけで押し切っているシーンで、普通に観ればツッコミ所でしかないが、これを俊一が想像した襲撃シーンだと仮定すれば、それはそれで納得がいく。

 そうすれば全体の内容が、シーン的な雰囲気の良さばかりに重点を置いた、行き当たりばったりなのも多くの部分で許せるはず。俊一がひょんな事から覗いてしまった異世界の一部シーンを切り取っているだけなのだから、到底人間には理解不能なのだ。逆に100分間、キャバレーというありふれた環境で、オシャレで残酷な空気感しか出さずに押し切ってしまうこの作品の、妙な魅力に気づくことだろう。

 とはいっても、これは個人的に同作の監督である角川春樹氏の世界観がそこまで嫌いではないので楽しめる方法だということには触れておく。もちろん角川氏は、本業は映画監督ではない。どちらかというと、『シベリア超特急』を観る時のようなノリが必要かもしれない。他の観方としては豪華キャストがほぼカメオ出演のように登場しているシーンも多いので「ウォーリーを探せ」みたいな要領で楽しむのもありかなあ…。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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