本好きリビドー(130)
◎快楽の1冊
『青光の街(ブルーライト・タウン)』 柴田よしき 早川書房 1700円(本体価格)
小説を読んでいて、この先はページめくっていくとこのような展開になるんだろうな、と予測することがある。あまりに多くの読者に予測させてしまい、果たしてその通りになる小説は出来が悪いと言っていい。こんな展開なら俺だって書けるぜ、としらけさせてしまうからだ。
本書『青光の街』は予測させるような、させないような、微妙な中間地帯に立って読者を引き込んでいく小説だ。主人公・草壁ユナは小説家でありながら、探偵会社の所長でもある。もともと、担当編集者であった男性が、退職をして探偵会社を作る、と宣言した。協力してくれないか、と言われたのが所長になるきっかけだった。
小説家でありつつ探偵会社の所長。なかなかとっぴな設定である。基本的な立場は小説家なので、実際の調査は部下たちに任せている。報告書を読んで、判断、指示をする。
ストーリーの中心は連続殺人事件だ。東京で次々と殺された遺体が見つかる。いずれも、電飾が残されていた。クリスマス・ツリーに施されるような電飾のコードである。どうして犯人はこんな奇妙なことをするのか。警視庁の刑事たちは謎を解明しようと躍起になるが、ユナもこの事件に関わることになる。警察と探偵事務所、双方が連続殺人の解決に挑む。
本作は不思議なゆるやかさに包まれた小説だ。連続殺人に電飾、というと何か猟奇的な殺人ストーリー、と思わせるが、その解決のために刑事、探偵たちが一直線に猛突進していくわけではない。何となく、ゆるやかでもある。ユナがパンを焼いて喜びを感じる日常などが随所に盛り込まれる。読者は、そのシーンでは事件のことを忘れてしまう。本筋から付かず離れず、という不思議な魅力があるのだ。いい意味で読者の予測をはぐらかし、結末でいきなり裏切る巧みな作品だ。
(中辻理夫/文芸評論家)
【昇天の1冊】
かの山本晋也監督が執筆し、健在ぶりを示した書籍が刊行された。タイトルは『風俗という病い』(幻冬舎/800円+税)
山本監督といえば、深夜バラエティー番組『トゥナイト』(テレビ朝日系)で性風俗のリポートを担当していた。記憶に残っている読者も多いだろう。日本の風俗業界の裏事情と、そこに巣くう人々への取材は監督のライフワークといってよく、本書でも性とセックスに貪欲な男女の素顔が、赤裸々につづられている。
しかもここで取り上げているのは、かつて温泉街にいた枕芸者から1980年代の女子大生売春、バブル経済末期にブルセラショップで下着を売った女子高生たちが、やがて援助交際に手を染め始める平成時代、さらに現在の風俗嬢の高齢化という問題までを、つぶさに網羅しており、さながら「ニッポンの風俗史」ともいえる濃ぉ〜い内容になっている。
登場するのは匿名の一般人。いずれも乱れっぷりはスゴい。
ハプニングバーに自分の居場所を見つけた若い女、妻を他の男に抱かせて興奮する夫など、自分の性癖に忠実に生きようとする姿が描かれており、日本人の性ほど奔放なものはないと思えるくらいだ。
こうした人々は、山本監督の往年の名セリフをかりれば「ほとんどビョーキ」なのだが、表面上はフツーの暮らしを送っている。だからこそ、性は深淵と思わずにいられない。
読者の隣にいる真面目な人も、意外と裏では…と、妄想をかきたてられる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)