春の昼下がりに、猫の言葉を聞いた人の話【ささや怪談】 (2/2ページ)
ぼくにも
驚いたセイさんは、大人の猫たちを慌てて追い払った。
子猫は、ようやくエサにありつくことが出来た。
しばらくすると、子猫は満足したのか、その場をすたすたと去って行った。
「はっきり聞こえたのよ」
小さな男の子を思わせる声で、それは喋ったという。
セイさんの家には、他に誰もいなかった。
Photo by Omran Jamal, on Flickr
「誰に言っても、信じてもらえないのですが」
セイさんは、懐かしそうに目を細めた。
その後も、虎猫たちはセイさんの家にやってきた。
だが、いつしか疎遠になってしまったという。
猫の平均寿命から考えると、今はもう生きていないだろう。
「そういえば、子猫に名前はありましたか」
「なかったわ。いま名づけるとしたら、スピカはどう?」
「......良い名前ですね」
スピカとは、春の夜空に輝く天体のことだ。
もし、猫が喋ったとしても。
きっとそれは、行ったことのない星のようなものだろう。
「前田くん、猫にはわりと甘いのね」
セイさんが、微かに笑った。
筆者:前田雄大怪談団体「クロイ匣(ハコ)」の主宰者。関西を中心として、マイペースに怪談活動を行っている。https://twitter.com/kaidan_night