「NAVERまとめ」問題が照らす”乗っかる系ビジネス”の悩み|やまもといちろうコラム

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 山本一郎(やまもといちろう)です。年末恒例の海外巡業も終わって、今年は穏やかな年末を過ごしています。

 ところで、先日のDeNAキュレーションメディア問題に端を発した一連の剽窃気味の乗っかる系ビジネスについて、最近では無事NAVER方面に延焼し始め、騒ぎになってきています。

NAVERまとめの問題をNAVERまとめに挙げたら無告知で「noindex」化されて色々となるほど感
WELQなどのキュレーションメディアを著作権法の観点から分析してみた

 問題自体は、ネットで人気を誇るクマムシ博士が、自身のブログからNAVERまとめに無断盗用されたため、NAVERまとめを運営するLINE社に削除の申し入れをしたが一向に埒が明かないので、自らNAVERまとめに問題の所在を明らかにする記事を掲載したところ、NAVERまとめにログインできなくなり、また検索エンジンに引っかからないようサイトに“nofollow”タグをNAVER運営に追記されてしまった、という内容です。長い。

 もっとも、LINE側にもきちんと言い分はあるようですが、正確な話が公式にLINEから出てこないので何とも言いようがないというのが実情です。

 冷静にここだけ見ると、実に可燃性の高い物件でありまして、タバコの火でも失火しようものなら大爆発炎上して黒煙が上がるタイプの素人お断り事案です。実際、一昨年のLINE上場にあたっては、当時LINE(というか買収した旧livedoor)が運営していた出会い系アプリ大手「YYC」と並んで、法律上のリスクの高い事業としてNAVERまとめも問題視されていた、という話はあります。もちろん、その後は適切な運営を行うことが確認されたということで、LINEはNAVERまとめを事業停止したり売却したりすることなく現在にいたっていますので、問題はクリアされた、と当時は見做されていたのでしょう。

 ところが、ある意味でDeNAからのもらい事故的に正面からユーザーに問題視され、クマムシ博士に対する一件のようなネタが多数出てくるようであれば、さすがに事業のやり方を今風に変えてほしいという要望は出てきてもおかしくはないでしょう。リクルートはもちろん、サイバーエージェントでさえ問題の解決のために動きを見せていたことを考えると、LINEの硬い態度は第三者的に見て「これは本当に大丈夫か」と思ってしまいます。

 そして、なぜかNAVERまとめへのプレッシャーが高まるネット署名まで立ち上がってしまいました。

「広告会社はNAVERまとめへの広告配信を停止してください」 NAVERまとめに写真をパクられた写真家がネット署名開始
なぜ無断転載された側に手間を要求? 「NAVERまとめ」の“トンデモ”削除対応、理由を聞いた

 それも、NAVERまとめへの広告配信の停止を求める内容であり、賛同するかどうかは別として、兵糧を絶つ系の話であります。

 実際にNAVERまとめに記事を剽窃される側の怒りというのはかなりのものでしょうが、LINEとしてはそういう仕組みでやっているので本当に権利者であるかどうかが分からない限り対応できない、という内容です。申し立てる側は「なんでだよ! 自分のコンテンツだぞ!」という怒りを抱き、運営する側は「本当に権利侵害であるか証明してほしい」と紋切り型の対応をする間に摩擦熱が高まって煙が出ていずれは出火する、ということなのでしょう。

■問題は「NAVERまとめ」だけではない

 この手の話はほかにもあって、Twitterでの記述を第三者が勝手にまとめて広告貼って商売しているTogetterも別の意味で出火する可能性の高い危険なサービスになってきています。私もいままで何度もTogetterでまとめられたりコメントが流用されていますが、Twitterのアカウントで書いている内容はTwitterのサービスを利用するために記述しているものであって、Togetterの商売のために自由にアクセスさせているわけではなく、承認したつもりもなく、そもそも私もモノを書いて原稿料をいただくことも多いため商売にやっているわけですから、Togetterは引用を超えた利用だ、と言えばそれはそれで通る話です。

 他にもTumblrやWebarchive、魚拓系のサービスもそうですし、およそSNSに関わる外部サービスはSNSに投入されたデータを利活用しており、ウェブ系便利ツールも個人的な私的利用を謳いながらも、実際にはウェブで公開される限りパクリ問題からなかなか逃れることはできません。キュレーションサイト問題とは、誰かが誰かをお薦めするにあたり、その誰かのコンテンツが流用され、流用されて人が集まるほどに運営コストを賄うために広告が貼られるという宿命がついて回ることに根幹があります。

 もともとは、2ちゃんねるまとめサイトだって、新聞や雑誌の記事の一部または全部の引用の下に有象無象の面白コメントがついてそれを整理するだけでコンテンツとして面白いという剽窃上等の仕組みです。

 そこには前述の柿沼太一弁護士の著作権に関する説明と、いわゆる編集による付加価値の“見合い”の部分がどうしても出てきます。引用の範囲内であり、編集のひと手間が入っていれば、まあ問題ないでしょうというのが一連の剽窃サイト問題の落としどころになるのではないかと思います。

 そうなると、やはり丸ごと他社のサイトやコンテンツ、書いたものをもってきて掲載するだけのNAVERまとめやTogetterなどは、日本の法律に基づいて考える限り、限りなく黒に近い黒という判断になっていくのでしょう。

 しかし、その程度のことはLINE法務も知っているはずで、なぜにそんなに突っ張って記事削除しなかったり、告発したクマムシ博士をアカウントBANなどして、着地どころか騒ぎがより拡大するようにネタを広げてしまうのか、という疑念は感じます。一部上場企業がやるビジネスでは本来ないのは間違いないのに、現状の情勢に合わせたり妥協したりしないどころか、DeNA「WELQ」問題がDeNA社全体の問題に拡大した後、煽るようにNAVERまとめのまとめ人に対する報酬アップキャンペーンをやらかすなど、峠の崖下ギリギリを攻めるようにアクセルを地べたまで踏んでいる雰囲気です。

■業界全体に根付く問題の根幹

結論からいうと、LINEの上場審査に関する経営者ヒヤリングでのNAVERまとめ事業に関する説明にすべてが凝縮されているように思います。掻い摘んで言えば、NAVERまとめはNAVER創業メンバーの一部が自信をもって投入したサービスで、収益の柱というよりは、事業に対するこだわりの問題なんだそうです。個人的には、DeNAみたいに「ソーシャルゲームの次の収益事業がうまくみつからず、焦っていた」という話のほうがまだ…、という気もしますが、NAVERまとめ事業がLINEの外すことのできないコア事業だとするならば、むしろちゃんと適法になるようなシステムを“発明”して、権利者も利用者も喜ぶようなサービスに作り替えたほうが喜ばれると思います。

 DeNAもまだまだ火種を抱えているようですし、焦るDeNA経営陣に危険物を買わせたキャピタリストや剽窃メディア関係の人たちはシンガポールで別のメディアが伸びるチャンスだと関係者にハッパをかけているとも聞きます。まあどうせ大きくなってきたら誰かが叩き潰すような情報を出してくるのかもしれませんが、これらの「法にさえ触れないで短期的に儲けられれば良い」と考えている向きというのは、いまのベンチャー界隈の「法律をギリギリで攻めるのを良し」とする間違ったベンチャー精神に依拠している部分が強いのだろうと思います。

 それなりの報酬で優秀な技術者やデザイナーを集めてきておいて、やっていることがGoogleなど検索エンジンの仕組みをハックするという、競合するべき相手の手のひらに乗っかりに行くだけのスケールの小さなサービスしか生み出せていないあたりに懸念があるのではないでしょうか。その割に、ベンチャー系のローンチパッドでは世界を獲るぞ的な怪気炎や日本経済の未来についてでかい口を叩くのが相場になっているわけで、それでいてやっている商売がネットに流通している記事を集めてきて、面白おかしく編集して広告貼って収益を上げているだけでは、世の中良くなるために働いているわけではないのだろうと思うわけです。

 全員が全員、スティーブ・ジョブズさんを狙える人間だというわけではないのは事実です。ただ、さっと儲けて、利益が足りない上場企業に売りつけて儲けるというサイクルがもたらす影響は、市場主義的とはいえなんとも残念なことです。

 人工知能にせよサイバネティック社会にせよIoTにせよ、折角の技術が出回っているのに手元で扱えるビジネスが結局はまとめサイト程度のネタで喜んでいるようじゃダメじゃないの、結局直接モノを売ることもできず広告で稼ぐしか方法ないんじゃないの、と思うんですが、どうでしょうか。

 年末押し迫ったところで問題を投げっぱなしジャーマンにするのも恐縮なのですが、来年も皆さまの良い年となりますように。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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