【不朽の名作】映画が娯楽の王様だった時代を描いた『キネマの天地』しかしチラつく寅さんの影が… (3/3ページ)
一応、喜八が小春の出生の秘密を語る場面や、小春の主演映画「浮草」を劇場に観にいった喜八のシーンなどは寅さんノリではなく、いたって真面目だ。いや、寅さんも真面目な時はあるけど…。でもこのシーンも、小春からの視点があまりなく、どこか物足りない。あと、その出生の秘密のオチだが、『蒲田行進曲』で似たような設定があったので、それも引っかかる。
しかし、それでも観ていて良い作品だなと思わせてしまうのが、この作品のずるい点だ。役者が山田監督に関わりのあるベテランばかりなので、決めるところはちゃんと決めてくる。渥美のセリフ回しだけでもかなり楽しめる。ちなみに同作の舞台は満州事変後で、本来なら、後の暗い歴史の部分を暗示させる部分ではあるのだが、それを笑いに変えてしまうシーンなどもある。個人的には、健二郎が思想犯として逃亡していた大学生時代の先輩である小田切(平田満)をかくまったせいで、特高警察に部屋へ押し入られたシーンで、健二郎の本棚を見て特高警察が「こいつマルクス読んでやがる」とコメディー俳優・マルクス兄弟の写真集を確認して憤っていたのがかなりツボに入った。
(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)