「無縁社会」に山田洋次流ブラックユーモアを交えた映画「家族はつらいよ2」
松竹配給/5月27日より新宿ピカデリーほかで公開
監督/山田洋次
出演/橋爪功、吉行和子、小林稔侍、風吹ジュン、蒼井優ほか
『男はつらいよ』シリーズなどの“国民的ベテラン名匠”山田洋次監督の最新作。1931年生まれで、この9月で86歳になるのだが、ほぼ同い年(1930年生まれ)のクリント・イーストウッドと同様、まだまだ達者で精力的にメガホンを取っている。
ただ、ここ何作かは、自作や過去の名作を繕い直す作業が目立つ。例外を挙げれば『小さいおうち』(2014年)ぐらいか。もはや観る側も新しい物を求めるのではなく“おなじみの芸”を味わえばいいのかもしれない。『家族はつらいよ』というタイトルがそれを象徴している。
“家族”と言えば1970年の自作にそのタイトルがあったし、“~はつらいよ”は、もちろん『男はつらいよ』。その合体である。『東京家族』(2013年)は、小津安二郎監督の名作『東京物語』(1953年)のリメークだし、『家族はつらいよ』(2016年)は『東京家族』とほぼ同様キャストによる喜劇版というわけで、今回はその続編だ。
山田監督がタブーな題材で真骨頂を見せる
前回のテーマは“熟年離婚”だったが、今回は“無縁社会”だと山田監督自身が語っている。いつも騒動を引き起こす主人公の平田家のガンコ偏屈オヤジぶりを、橋爪功がさらに磨きをかけて演じている。このベテラン俳優の持つキナ臭さがキャラクターにぴったり。今回も、なじみの居酒屋の女将(風吹ジュン)にちょっかい出したり、高齢者ドライバーの事故が波紋を呼んでいる昨今にちなんで、すでに70代の彼の運転免許の返上を迫る家族に「おれは死ぬまで運転するぞ」と居直ったりと、相変わらずのヤンチャジジイぶり。
しかし、本題はここから。この偏屈オヤジが、かつては羽振りもよく、女性にもモテた高校の同級生(小林稔侍)を偶然見かける。その姿は、高齢をおして工事現場で赤い棒を汗かきながら振っている姿だった。現在独り身で、安アパート暮らしの同級生はまさに“無縁社会”の象徴のようなもの。なじみの居酒屋に誘って痛飲、家族に迷惑がられながらも自分の家に泊めることになるが、翌朝、その同級生は冷たくなっていた…。
ご遺体となった彼を救急車で運ぶくだりはかなりブラックな笑いを誘う。いわば“死体いじり”のようなタブー・ネタなので、これまでのヒューマン派の代表のイメージのある山田洋次作品とは異質のように見えるが、これが隠れた真骨頂でもあるのだ。
まだ“寅さん”で売れる前のハナ肇主演の“馬鹿”シリーズなどは、そんなブラックな笑いが満載だった。加えて、山田監督自身、現在“独居老人”に近い生活をしている、と漏れ伝え聞いた。これは彼にとって、“当たらない映画監督時代”の資質と、現在の置かれている状態を照らす作品となった。そこが興味深い。
[いっしょに読みたい]
※ ウディ・アレンの約20年前の「お下品」ラブ・コメディー映画
※ 2017年最高の青春映画「夜空はいつも最高密度の青色だ」
「無縁社会」に山田洋次流ブラックユーモアを交えた映画「家族はつらいよ2」はまいじつで公開された投稿です。