「世界のキタノ」に挑戦状!? 小林勇貴監督インタビュー (2/2ページ)
それこそが自分の理想とする監督の仕事でもあるんです」
■インディーズにはなかった制約も…
もっとも、出資者のいる商業映画の現場には、インディーズにはなかった制約も数多ある。「刺激中毒」を自認する彼のような存在には、これまでできたことが「できない」ということが、ある種の“枷”となってしまうような気がしなくもない。そこに窮屈さは果たしてないか。そんなこちらの素朴な疑問に「逆にそれがたまらない」と即座に応じた若き奇才は、こう続ける。
「まず手段を考えて、そのために必要な手順を踏む。それはどんな環境でも同じこと。俺は何も“準備”を否定したくてガムシャラにやってたわけじゃないんです。しかも、商業映画になれば、腕利きの職人たちが“もっといい映画にしよう”と団結してくれるわけですから、これほど刺激的なことはない。“一度やらせた以上、俺はもうやめないからね!”って心底思いましたよ(笑)」
■凄惨な事件を題材にした作品に賛否両論
今作は、現実に起こった凄惨な事件を題材にした作品でもあるだけに、賛否両論は当然ある。彼のもとにも、苦情がしばしば届くという。しかし、普通なら日和ってしまうそんな声をも一笑にふしてしまえるのが“ヤバいやつ”であるゆえん。彼自身は、受け手の読解力の乏しさを指摘しつつ、こうも話す。
「俺が描きたかったのは“家族”という大義名分に振り回された男の悲喜劇。そういう“何か”を宿してしまったがために意志とは無関係に暴走せざるをえなくなるっていう経験や危機感は、誰もが少なからず持ってるものだと思うんです。にもかかわらず、ほとんどの人は、この映画を事件の真相を描いたものだと思いこんで“不謹慎だ”と怒ってくる。事件そのものが“真相はまだ不明”って扱いを受けてることは調べりゃすぐ分かることだし、鈴木智彦さんの原作にしたって矛盾点もわりと出てくる、ひとつの視点でしかないんですけどね」
9月にフランス・パリで開催されたエトランジェ映画祭でも、熱狂をもって迎えられた『全員死刑』。「若いやつがみなさんを物理的に殺しに来たと思ってほしい」とうそぶく男の前途から目が離せない。
取材・文/鈴木長月
小林勇貴(こばやし・ゆうき)
1990年生まれ、静岡県出身。映画監督。業界関係者を唸らせた快作『孤高の遠吠』を筆頭とする数本の自主映画を経て、『全員死刑』で商業映画デビュー。自叙伝『実録・不良映画術』(洋泉社)を近日上梓予定。『全員死刑』は現在全国で公開中。