“ひふみん”加藤一二三九段「ほっこりマイペース」の魅力 (2/2ページ)
その先端はベルトより20センチも下にあり、正座すると床につくほどです」(前同)
さらに、対局中に相手の背後に立ち、反対側から盤面を眺めて形勢を測る、相手にとっては迷惑このうえなさそうな“ひふみんアイ”という必殺技(?)も。「その際、長いネクタイが相手の頭にペチペチ当たってもお構いなしという自由闊達ぶりです」(同)
食へのこだわりも独特だ。「30年以上、対局の日は昼夜ともうなぎが定番でした。“対局中に食事のことで迷いたくないから”とのことです」(観戦記者)
甘いものが大好きで、対局中に板チョコをバリバリ、カルピスをゴクゴク。板チョコは最高で10枚を平らげたこともあるという。「板チョコは明治の商品をカートンで購入し、手持ちがなくなると対局中でも買いに行くほどです」(同前)
早口で興奮気味に話す、テレビなどでの解説も将棋ファンにはおなじみだ。「いい手が出ると“ひゃあ!”と驚く素直なリアクションが代表的。手のすごさが視聴者に分かりやすく伝わるため“ひゃあ!”とともに名局として語り継がれるようになった対局も数知れません」(専門誌記者)
■ひふみんの存在は老後へのヒントに
本誌の詰将棋を監修する佐藤義則八段(68)は、奨励会時代に、まだ若き加藤九段の対局の記録係を務めた際の思い出を話してくれた。「羽生二冠でも藤井五段でも、若いときはどんどん指し手が進むものですが、加藤九段は当時から、一手に何時間もかける長考家。将棋に向き合う姿勢は真剣そのもので、好んで色紙に書く“直感精読”を若い頃から実践されていたと思うと、改めて感服させられます」
時間をいくらかけようと「将棋に勝つ」ことだけを追求する迷いのなさのおかげで、人目や金、名誉といった世間の物差しも気にしないで済んだのだ。「中学時代から将棋しかやってこなかったために浮世離れしており、一般的な価値観と、加藤九段の感覚に絶妙なズレがある。それが面白味となって人気を得ましたが、何より、そこに計算や嘘がないため、そのズレごとも人々に愛されてしまうんでしょう」(佐藤八段)
マイペースさが、ただの身勝手ではなく、好きなことに全身全霊を捧げた人生の証であることが分かるがゆえに、本人の魅力にもなる。「我々も日頃から好きなことに打ち込み、“それだけで幸せ”という精神状態でいれば、たとえば定年退職後に会社の肩書きや人間関係がなくなっても気にせず、楽しく生きられる“ひふみん力”を身につけられるかもしれません」(心理学者)
ひふみんの存在は、豊かな老後へのヒントになるのかもしれない。