【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第2話 (2/4ページ)
兄さんの絵、気に入ったから一分金!」
一分金を手渡した。
「ほんにか!?ありがとう、姐さん」
一分は、銭に換算すると千文ほどである。
「姐さんはやめて。あたしまだ十五なんだから」
「十五!?」
「兄さん、後であすこの裏茶屋に来てよ。ね。お願い」
裏茶屋とは吉原遊廓内で女郎と情夫が逢い引きするのに使った茶屋である。女郎が指した路地の入口には、奥に裏茶屋がある事を示す掛け看板が確かにあった。
図:吉原遊廓の裏茶屋 出典元・「郭の花笠」国立国会図書館蔵
男は役者を真似て元結を二巻にした細髷を照れくさそうに撫ぜ、「いいの?」と素直に嬉しそうに口を開けて笑った。笑うと目もとがくっと垂れて、一気に幼くなる。その無邪気さが見ていた女郎たちをたまらない気持ちにさせた。
「兄さん可愛いねえ」
「あちきも買うよ、凧!」
「あたいが先!」
禿たちそっちのけで、群がった女郎たちの懐から我先にと銭がばら撒かれる。
「困ったな、姐さん方は行儀が悪りいや」
キャアキャア騒ぐ自分の姉女郎の脇で、禿たちは思い思いの絵凧を手に、キョトンとしている。男はそんな禿たち一人一人の目線に己の視線を合わせてしゃがんだ。