大相撲インタビュー関脇・玉鷲「優勝への軌跡」と苦労の日々
「最高です!」大相撲初場所の千秋楽。表彰式での優勝力士インタビューで、関脇・玉鷲は力強く、こう叫んだ。入門から15年の34歳。すでに「ベテラン」と呼ばれる部類ではあるものの、幕内最高優勝という「夢」は諦めていなかった。だからこそ、つかんだ大きな夢。
思い起こせば、初場所最大の焦点は、休場が続いていた横綱・稀勢の里の「再起なるか」だった。ところが、稀勢の里は初日から3連敗を喫し、4日目に引退を表明。「土俵人生において、一片の悔いもございません」との言葉を残し、土俵を去ってしまった。
初場所の土俵を引っ張ったのは10日目まで全勝だった横綱・白鵬。一方、玉鷲は5日目を終えて3勝2敗と、優勝戦線とは無縁の位置にいた。ところが、12日目。玉鷲は、これまで本場所で一度も勝ったことのなかった白鵬を撃破。白鵬は翌13日目にも貴景勝に敗れて3敗になったため、13日目を終えた時点で状況が一変、玉鷲が単独トップに立った。
「前半戦の状況からして、まさか自分が優勝争いのトップに立つとは思っていなかったから、14日目はガチガチだったよ(笑)。もう脳ミソ、真っ白!(14日目の碧山戦は)、立ち合い当たったあと、体が勝手に動いてくれて勝った。こうして迎えた千秋楽の遠藤戦、自分が負けて3敗になって、結びの一番で貴景勝が勝てば、優勝決定戦にもなる展開だった。でも、意外に焦りはなくて、“よ〜し、ここでやってやるぞ!”って燃えたね。燃える理由は、実はもう一つあったんだけどね(笑)」
遠藤戦、玉鷲は冷静に相手を見ていた。遠藤の低い体勢を見逃さず、わずか2秒で突き落としの勝利。その瞬間、34歳での初優勝が決まった。「(優勝が)決まった瞬間は、本当は体全体で表現したかったんだけど、結びの一番まで2番あったから、天井までいっちゃうくらいのうれしい気持ちを抑えていたんです。抑えていた分、“最高です!”という言葉が出ちゃったのかもしれないですね(笑)」玉鷲は、こう振り返る。
そして、インタビューではサプライズが披露された。玉鷲いわく「もう一つの燃える理由」は、奇しくもこの日の朝、次男が誕生したことだった。「生まれたのは、午前4時くらい。千秋楽のこの日が予定日といわれていたから、気が気じゃなくて……。だから深夜2時頃、病院に行ったんだけど、奥さんから“私は大丈夫だから、相撲に集中して”と言われて、いったんは自宅に帰ったんです。でも、それからしばらくして“男の子が生まれた”という知らせが入ったから、6時にもう一度、病院に行った。それで、ほんのちょっとだけ奥さんと次男と会って、朝稽古のため部屋に戻ったんです」次男の誕生は、玉鷲の初優勝の夢をより強くした。初優勝と子どもの誕生が重なったという力士は、もちろん史上初である。
玉鷲一朗。1984年11月にモンゴル・ウランバートルで生まれたムンフオリギル少年の将来の夢は、ホテルマン。高校を卒業した後は、実際、ホテルの専門学校に通っていた。その頃、東大大学院に留学中だった姉を頼って日本に遊びに来た玉鷲は、相撲の街・両国へ。
そこで偶然出会ったのが、自転車に乗っていた鶴竜(当時・幕下)だった。「それまで相撲の経験はなかったし、相撲をやろうという気持ちはなかったんです。でも、実際に力士に会ったり、話を聞いたりしているうちに、“この体を生かせるかもしれない”と思ったんです。それで旭鷲山関の紹介で、片男波(かたおなみ)部屋に入門が決まりました」
04年初場所で初土俵を踏んだ玉鷲は19歳。白鵬や鶴竜が15歳で入門していることを考えれば、かなり遅い入門といえる。実際、出世もトントン拍子とはいかず、3年が経過した。
そして、07年秋場所、幕下優勝を果たし、翌九州場所では初めての幕下上位(2枚目)に進出。この場所、4勝3敗と勝ち越し、ワンチャンスで十両昇進を決める。「(十両昇進までの)3年半は長かった……。相撲が強くならなかったこともそうだけど、言葉の壁も大きかったです。同じ部屋にモンゴル人はいませんから、最初は英語で会話したりもしたし、部屋の先輩たちが話をしているときとか、本当は日本語の意味が分かっていないのに、自分、空気を読み過ぎちゃうタイプなので(同調していると)、“おまえ、本当は日本語分かってるんじゃないのか?”なんて言われたり……(笑)。そんなこともつらかったから、モンゴル人同士でつるんでいると、今度は日本語が下手になっちゃって。試行錯誤の3年半でしたね」
外国人力士の出世のスピードは、いかに早く日本語をマスターするかによるともいわれている。師匠や兄弟子が、よかれと思って送ったアドバイスを理解できずに誤解が生まれた結果、志半ばで角界を去るというケースも少なくない。玉鷲は3年半という時間をかけて、この壁を突き破ったのだった。
現在発売中の『週刊大衆』3月18日号では、遅咲きの異色の鉄人、玉鷲の勝利の秘訣についてさらに詳しく特集。「女子力」の高い日常生活にも迫っている。