グランドキャバレーの指名攻防戦:杉作J太狼XE「美しさ勉強講座」連載98 (2/4ページ)
だから断るべきなのだというKの姿勢は最初たしかに頼もしかったが、
「フルーツ食べていい?」
「だーめ」
なにもかもだめだと断っているうちにテーブルの雰囲気はなんとなく、そしてはっきり確実に沈んできた。
そのうちに交わされる会話は、
「じゃあ指名してよ」
「だめだよ」
「じゃあ飲ませて」
「ははは、だめ」
「指名してよ」
「だめだめ」
という懇願と拒絶だけになった。
テーブルは明らかに異様な雰囲気になって、私は不安になっていた。だがテーブルにいたのはKと同じ会社の人たちで私だけほとんど面識がなく、おまけに旅先で、勝手もわからず、口出しすることもできずただ笑ったりしながら見守るしかなかった。その頃にはもう笑ってなかったが。テーブルにいる私たち、ホステス、誰も笑ってなかった。顔立ちのはっきりとしたホステスの目は吊り上がっていた。それでもKは涼しい顔で「だめ」「だーめ」と答え続けた。
そして何十回めかの「指名してよ」のあと、Kがテーブルに500円玉をいくつか置いた。
「これあげるから静かにしてよ」
目が吊り上がっていたホステスが怒って席を立った。
その後、どれぐらい店にいたのだろう。テーブルの空気は暗かったがKは涼しい顔をしていた。
店を出るときも誰も見送りに来なかった。
ふつうは「また来てくださいね」とホステスが見送る。そんな気分になれなくて当然だし、腰が重かったはずだ。
外に出て歩き出そうとしたとき、ひとりのホステスが私たちを追いかけてきた。
20歳ぐらいのおとなしいホステスだった。
色の白い、かわいい、おさない顔立ちの女の子だった。
「ごめんなさい」
女の子は泣き顔になっていた。
Kも振り返ってその子を見たが。「ふっ」と笑って歩き始めた。