うつの人はなぜ悲しい音楽を聴きたがるのか?それには理由があった(米研究)
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音楽が心に強く作用することは誰でも知っている。
普通に元気なときでも、ラジオから涙を誘う悲しい曲が流れ出せば、どこか沈んだ気持ちになるだろうし、その逆もしかりだ。
大抵の人にとってこうした作用はさしたる問題ではない。だが、うつ病を患う人にとってはどうだろうか?
数年前のある研究によると、うつ病の人たちは、元気の出る音楽など目もくれず、悲しい音楽ばかりを聴くことが多いのだという。
余計気分が滅入ってしまいそうだが、実はそうではないそうだ。うつ病の人たちは、悲しい音楽を聴くことで、むしろ心が落ち着き、リラックスできるのだという。
・うつの人たちは悲しい曲調の音楽を好む
アメリカ・サウスフロリダ大学が行った研究によれば、うつの患者は自分を元気づけるために悲しい音楽を聴いているのだという。
研究では、うつと診断された女子大生38名とうつではない女子大生38名を対象に、悲しい曲(サミュエル・バーバー作曲『弦楽のためのアダージョ』およびアビ・バリリ作曲『ラカボット』)、明るい曲、中立の曲を30秒間聴いてもらった後、もう一度聴きたい曲はどれか質問した。
その結果、うつの参加者は悲しい曲を選択する傾向にあることが判明した。
――ここまでは、先行研究の結果と同じだ。しかし、ここでそれを選んだ理由について尋ねると意外なことが判明したのである。
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・うつの人は悲しい曲の方がリラックスできて落ち着く
うつの参加者のほとんどが、悲しい曲を選んだ理由として、「リラックスできるから」「落ち着くから」「慰めになるから」と答えたのだ。
もう1つの実験では、前回と同様にさまざまな曲調(明るい、悲しい、恐ろしげ、中立、ハイテンション、ローテンション)のインスト音楽のビデオクリップを10秒間視聴してもらい、それでどのような気分になったのか答えてもらった。
すると「元気になった」「悲しみが薄れた」という答えが聞かれたのだ。
つまり、悲しい音楽ばかり聴いているから余計に悲しくなるのだ、というそれまでの見解とは逆の結果が確認されたのである。
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・悲しい音楽でなぜ元気が出るのか?
うつの人たちが悲しい音楽を聴いて、なぜ元気が出るのかははっきりとはわからない。
しかし、常識的に考えるのなら、心が疲弊している人にとってテンポの速い明るい曲調ではうるさく聴こえて、イライラしてくるのかもしれない。
そして、むしろ穏やかで落ち着いた曲調のほうが心地よく感じられるのだろう。
ちなみに落ち込んだときに悲しい曲を聴きたくなる理由を調べた別の最近の研究では、参加者(うつではない)から「悲しい音楽は支えてくれる友達のような感じ」という証言が聞かれている。
もしかしたら、沈んだ心を無理励まそうとするのではなく、気持ちに寄り添ってくれるような曲のほうが、本当に悲しんでいる人にとっては助けになるのかもしれない。
この研究結果は『Emotion』に掲載された。
References:Why Do People With Depression Like Listening To Sad Music? – Research Digest/ written by hiroching / edited by parumo