「第95回夏の選手権」前橋育英と常総学院の運命を変えた打球の行方 (2/2ページ)

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 ところがこの最終回、イニングに入る前の投球練習時に飯田に異変が起こった。熱中症による脱水症状を引き起こしてしまったのである。一度ベンチに下がって治療を受け、ふたたびマウンドへ。先頭打者に1球投げたものの、症状が治まることはなかった。この緊急事態に常総ベンチは2年生右腕の金子雄太を緊急投入。その金子も急きょマウンドに上がったとは思えないほど落ち着いた投球を見せ、簡単に2人の打者を打ち取る。前橋育英はいよいよあと1人というところまで追いつめられるのである。

 ここで5番・小川駿輝の打球もあっけなく相手二塁手正面に転がっていく。「終わった」と誰もが思った。先発して2点を失った2年生投手の喜多川は責任を感じてその打球の行方を見ることができず、下を向いていたという。だが、次の瞬間だった。なんと打球が常総二塁手・進藤逸の手前でイレギュラーし、小川が一塁に生きたのである。これで息を吹き返した前橋育英は続く6番・板垣文哉も低めの変化球を右翼線に運び、二塁打。2死ながら二、三塁と一打同点の場面を作る。そしてこのチャンスで打席には6回からリリーフ登板していた高橋が向かった。その2球目。外角の変化球を捕らえると打球は右中間へ。土壇場で追いつく起死回生の同点適時三塁打が飛び出したのである。

 こうなると試合の流れは完全に前橋育英へと傾く。延長戦に突入した10回裏、四球と安打などで1死二、三塁と一打サヨナラの舞台を整えると3番・土谷恵介が初球のチェンジアップを振り抜き、センター前へ。結末は3‐2の劇的サヨナラ勝ちであった。

 こうして奇跡的な勝利をもぎとった前橋育英は続く準決勝、決勝戦にも勝利し、みごと夏の甲子園初出場初優勝を成し遂げる。その快挙を陰でアシストしたのは、たった1球の白球の行方だったのだ。

(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=

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