「第56回夏の甲子園」東海大相模の原貢監督・辰徳選手「親子鷹」の名勝負 (2/2ページ)
このヒリヒリするような展開で先に均衡を破ったのは土浦日大であった。8回表に工藤の女房役・荒川俊男が勝ち越しソロを放ったのだ。好投を続ける工藤が崩れるとは考えにくく、このまま土浦日大が逃げ切るかと思われたのだが‥‥。
試合は9回裏に突入し、工藤は簡単に2つのアウト取っていた。だが、ここから東海大相模が名門の底力を発揮する。9番・鈴木富雄がしぶとく左前打で出塁して上位打線につなぐと、ここで監督である父・貢の出したサインはなんと“盗塁”。失敗したらゲームセット。3年生は高校野球に終わりを告げてしまうギャンブルである。だが、塁に出た鈴木はチーム1の俊足であった。それに懸けたのである。一方、息子である原はこれ以上ない崖っぷちで出されたサインに「うわ~と思った」という。背中が震える思いだったのだ。
それでもその懸けが吉と出る。1ボール2ストライクからの4球目に鈴木が見事に二盗を成功させたのだ。さらに1番・杉山繁俊が中前に起死回生の同点適時打を放って試合を2‐2の振り出しに戻したのである。
延長に入ると東海大相模ベンチはエース・伊東に替え、1年生左腕の村中秀人をマウンドに送った。この村中が1年生らしからぬ老獪なピッチングで土浦日大打線をかわしていく。対する工藤も大会屈指の好投手の実力を発揮してサヨナラ勝ちを許さない。両投手の投げ合いは延々と続き、気づけば試合は延長16回に突入していた。
16回裏。工藤の疲労の色は濃くなっていた。その疲れを東海大相模は見逃さない。好救援を見せていた村中が先頭打者として二塁打を放つとこの後、エラーと敬遠で1死満塁の絶好のチャンス。逆にもう工藤にこのピンチを凌ぐ力はなく、3番・園田良彦が右前にサヨナラ打を放って死闘に決着をつけたのである。
激闘を制した東海大相模はベスト8にまで進出。そこでまたも高校野球史上に残る大熱戦を繰り広げることとなる。快速球を誇る定岡正二(元・読売)を擁する鹿児島実との一戦である。延長15回にも及んだ熱闘は5‐4で定岡の鹿児島実に軍配が上がったが、それでも原は定岡に対して6打数3安打2打点をマーク。試合は負けたものの、“打者・原辰徳”は勝負に勝って甲子園を去っていったのだった。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=