年末年始に読み漁りたい傑作「時代小説」5冊(1)女料理人の成長物語 (2/2ページ)

Asagei Biz

この最終巻では、「食は人の天なり」という源斉の言葉を受け、いよいよ澪が自分の道を歩き出す。なんと四千両もの金を捻出し、あさひ太夫を身請けしようと決心するのである。

 ドラマでも「はてなの飯(甘辛く煮た鰹の握り飯)」「とろとろ茶碗蒸し」「三つ葉のかき揚げ」「ふきご飯」などが紹介されて人気だったが、最終巻にも美味いものがたくさん出てくる。「葛(くず)の水せん」「恋し栗おこし」、安価な浅蜊(あさり)の炊き込みご飯や魚の切り漬けも、読んでるだけで香ばしい香りが感じられるようだ。

 読者には、料理名「親父泣かせ」がお薦めかも!? 澪が江戸に出てくるきっかけになった事件に、ある食材が関係していて、黒幕と食材自体の正体を探る追跡も興味深い。

 筆者の飾らない表現は、そのまま澪の性格のようで、読んでいてほっとする。貧しい徒士(かち・下級武士)たちのために澪が丹精した麦飯弁当のエピソードには泣かされた。

 そして、クライマックス。あさひ太夫を誰がどうやって身請けするのか。澪が度胸と知恵を発揮する顛末は痛快な〝お仕事ドラマ〟。彼女を見守る人々の列に自分も加わった気になる。ほのぼのと幸せになれる一冊。

「天の梯 みをつくし料理帖」髙田郁・著/ハルキ文庫/682円

選評:時代劇研究家 ペリー荻野

62年生まれ。愛知県名古屋市出身。時代劇研究家、コラムニスト。大学在学中から中部日本放送(CBC)の深夜放送のパーソナリティー兼作家を務める。雑誌・新聞などで多数コラムを連載。平成30年日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門審査員。「脚本家という仕事 ヒットドラマはこうして作られる」など著書多数。

「年末年始に読み漁りたい傑作「時代小説」5冊(1)女料理人の成長物語」のページです。デイリーニュースオンラインは、決算!忠臣蔵天の梯 みをつくし料理帖ペリー荻野年末年始に読み漁りたい傑作「時代小説」5冊麒麟がくる社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る