どんな美女にもまさる姫君!「源氏物語」ヒロインで極度のコミュ障・末摘花の恋愛エピソード【完】

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どんな美女にもまさる姫君!「源氏物語」ヒロインで極度のコミュ障・末摘花の恋愛エピソード【完】

これまでのあらすじ どんな美女にもまさる姫君!「源氏物語」ヒロインで極度のコミュ障・末摘花の恋愛エピソード【一】

どんな美女にもまさる姫君!「源氏物語」ヒロインで極度のコミュ障・末摘花の恋愛エピソード【二】

どんな美女にもまさる姫君!「源氏物語」ヒロインで極度のコミュ障・末摘花の恋愛エピソード【三】

さて、光源氏(ひかるげんじ)との交際によって経済援助を取りつけ、どうにか貧乏暮らしを建て直しつつあった末摘花(すゑつむはな)の姫君ですが、その幸運も永くは続きませんでした。

光源氏が、帝の側室である朧月夜(おぼろづきよ)の姫君に手を出したことにより、謀叛の疑いをかけられてしまったのです。

一族を守り、身の潔白を証明するため、光源氏は自ら都を出て摂津国の須磨(すま。現:兵庫県神戸市須磨区)の地へと謹慎。そのてんやわんやによって、せっかくの経済援助もうやむやになってしまったのでした。

謹慎中でもナンパに勤しむ光源氏(イメージ)。

(……私以外の男では、とてもお相手が務まるまいから……)

そんなこんなで早三年。元からボロボロだった姫君のお屋敷は誰からも顧みられずますます傾き、見る影もなく崩れていくのでした……。

侍女たちに見捨てられ、荒れ果てた屋敷に独りぼっちの姫君

「姫様……もう諦めましょうよ……」

(まったく、ウチの姫君と来たら……たった一度の間違いを真に受けて、来る筈もない光源氏を待ち続けるなんて……)

その後、奇跡の逆転劇を演じて都へ舞い戻った光源氏ですが、末摘花の姫君を訪ねてくれる様子は一向にありません。

すっかり忘れ去られているのだから経済援助も当然なく、もういよいよ屋敷もつぶれそうなくらいに荒れ果てています。

「せめて、どこかもう少しマシな所へ引っ越しましょうよ……」

「……嫌よ……そんなことをしたら……我が背の君(伴侶=夫のこと。ここでは光源氏)がわたくしを訪ねて来られなくなってしまうから……」

いつか必ず我が背の君が、ここを訪ねてくれる筈……「源氏物語図 蓬生」桃山時代

(いやいや……誰もあなたの事なんて訪ねて来やしませんから!)

頑なに光源氏を待ち続ける末摘花の姫君に、侍女たちは愛想を尽かして次々と出ていってしまいました。

今にも朽ち果てんとする屋敷の中、独りぼっちで残された末摘花の姫君。もしかしたら、光源氏を待ち続けたと言うより、もはやどこかへ移り住む気力すら失くしていたのかも知れません。

(……もう幾日も、水しか口にしていない……)

亡き父・常陸宮が自分のために造ってくれたお道具(日用品)でも売れば、いくらか糊口をしのげたでしょうが、こんな自分にかけてくれた父の深い愛情を思うと、とてもそんなことは出来ません。

(わたくしはもう……このまま儚くなって=死んでしまうのかしら……)

すっかり元気をなくした末摘花の姫君は、御簾越しに月を眺めながら、ぼんやり死を待つよりありませんでした。

ただ一つの、輝かしい思い出

……思えば、悲しいことばかりの人生だった。

顔が醜い。才知に乏しい。コミュ障だから人づきあいも苦手……父・常陸宮はそれでも愛してくれたけど、父の亡き後はみんな離れて行ってしまった。

懸命に努力したつもりではいるけれど、生まれ持った素質というものは如何ともしようがなく、ずっとずっと、諦めながら生きてきた。

そんな中でたった一度だけ、今を時めく貴公子・光源氏が自分に気をかけてくれた。嬉しいけれど恥ずかしいあまり、半年も手間取ってしまったけれど、それでも決して諦めず、我が背の君となってくれた。

……あれが「何かの間違い」だった事は、誰より自分がよく解っている。こんな醜くて頭が悪く、愛嬌すらない女に入れあげる物好きなど、天下広しと言えどいる筈がない。

それでもあの一夜の、ぎこちない交わりこそが、わたくしにとってはただ一つの輝かしい思い出。

後姿「は」とても美しいと評判の末摘花(イメージ)。

あの透き通った声が、まだ耳に残っている。あの光り輝く顔(かんばせ)が、まだ眼底に焼きついている。しっとりとすべやかな指先でわたくしの(唯一の自慢である)髪をなぞり、広く温かな胸に、わたくしを招き入れて下さった……何もかもが、わたくしには分不相応に素敵だった。

もし叶わぬまでも、こんな望みが許されるなら、あの声で囁いて欲しい……「末摘花の君」と。あの方がわたくしに贈って下さった、とても美しい名前。もう一度聞けるなら、今ここで死んでもいい。

「……末摘花の姫君よ」

すると御簾の向こうから、聞こえる筈のない声がしました。

「……深き蓬のもとの心を」姫君の一途さに感激する光源氏

「……あら……わたくし、もう死んだのね……?」

末摘花の姫君は、目の前の光景をそう理解しました。それもその筈、姫君の前に、来る筈もない光源氏が立っていたのですから。

「これは幻……でも、嬉しい。我が愛しき背の君の姿を、こうして映しだして下さったのですもの……神様仏様……本当にありがとう存じます……」

「あ、あの……」

一人合点している末摘花の姫君に、光源氏は少し困惑しています。

(……まさか、本当にこんな恐ろしい荒れ屋敷に、独りぼっちで私を待ち続けていたとは……)

本当はたまたま近くを通りがかっただけなのですが「あの不器用だけど一途な姫君なら、今も私を待ち続けているかも知れない」と、確かめに入ってみたのでした。

いざ姫君の待つ元へ……尾形月耕「源氏五十四帖 十五 蓬生」より。

尋ねても我こそとはめ道もなく深き蓬のもとの心を

【意訳】道なき道を訪ねて行こう。蓬(よもぎ)の生い茂る=荒れ果てた屋敷の中で、ずっと私を待ち続けてくれた彼女の心を

以前、光源氏が謀叛の疑いをかけられた時、彼と親しくしていた多くの貴族や女性たちが一斉に掌を返し、光源氏は村八分状態にされてしまいました。

そんな苦い経験があるからこそ、ずっと変わらなかった(であろう)末摘花の姫君を、ずっと気にかけていたのです。

「あなたはどんな美女にもまさる……」光源氏の告白

「姫君……」

感激する光源氏を前に、末摘花の姫君は一人合点を続けます。

「もう、本当に夢みたい……こんな素晴らしいお姿を拝見できるなら、わたくし何度死んでもいいわ……でも」

そこまで言って、末摘花の姫君は少し顔を曇らせます。

「次に生まれて来る時は、もっと美しく、せめてもう少し賢く生まれたい……我が愛しい背の君に相応しく、恥をかかせないような女性に……」

目に涙を浮かべる末摘花の姫君を優しく、そして力強く抱き寄せた光源氏は、姫君に微笑みかけました。

「あなたは本当にバカだなぁ……そのままのあなたが良いのだ……たった一度の契りを決して忘れず、一途に信じ続けた純粋なあなただからこそ、私も忘れられずにいたのですから」

「背の君……」

真にパートナーとなれた(であろう)二人。尾形月耕「源氏五十四帖 六 末摘花」より。

「我が姫君よ……あなたはこの世のどんな美女にもまさる、美しい心をお持ちでいらっしゃる。私はそれを、何よりも愛しき至宝と思う」

「あぁ、何ともったいないお言葉……」

夢にまで見た光源氏から告白を受けた末摘花の姫君は、あまりの幸せと空腹(笑)で卒倒してしまったそうです。

エピローグ

その後、末摘花の姫君は光源氏が築いた豪邸に招かれ、側室の一人として幸せな余生を送ったそうです。

和歌の下手さや空気の読めなさは相変わらずだったものの、そんな不器量もまた彼女の個性として『源氏物語』に彩りを添えており、単なるプレイボーイに留まらなかった光源氏の人間的魅力を引き出しているように感じられます。

今回、どちらかと言えば脇役ヒロインに属する末摘花の姫君を紹介させて頂きましたが、是非とも『源氏物語』に触れて、お気に入りのヒロインを見つけて頂ければと思います。

【完】

※参考文献:
田中順子・芦部寿江『イメージで読む源氏物語〈4〉末摘花』一莖書房、2002年8月

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