歴代総理の胆力「大平正芳」(1)エピソードが物語る実直な人間性 (2/2ページ)

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「税務署の密造監視班は、未明から起きてその摘発にかかるのが常であった。ようやく東の空が明るくなった頃、ドブロクのカメが発見され、ただちに調書がとられ、即決の処分が行われる。若者は働かねばならないので、たいていは老人がその責任をとるようになっていた。時折、その現場に立ち会った私は“権力”と“民草(たみくさ)”、治者と被治者の悲しい関わりについて、何かしら割り切れない、やり場のない気持ちに沈んだものである」(「私の履歴書」日本経済新聞社)

 こうした大平を買ったのが池田勇人ということであった。池田は大蔵省事務次官にのぼり詰め、時の吉田茂総理の要請を受けて政界入り、1年生代議士にして大蔵大臣に大抜擢された。池田は大蔵省の中でも屈指の秀才として聞こえた宮澤喜一と、大平の二人を大臣秘書官に起用した。大平が辞退を申し出ると、池田は言った。

「まぁ秘書官室にすわっておればいいよ」

 大平がそばにいるだけで、池田は気持ちがなごむのだった。しかも、昭和27(1952)年10月の吉田総理の「抜き打ち解散」による総選挙に、イヤがる大平を説得、当時の中選挙区〈香川2区〉から半ば強引に出馬させてしまったものだった。池田としては大平にバッヂを付けさせ、信頼できる側近として仕事をしてもらおうとの思いに他ならなかった。

■大平正芳の略歴

明治43(1910)年3月12日、香川県生まれ。東京商科大学(のちの一橋大学)卒業後、大蔵省入省。昭和27(1952)年10月、衆議院議員初当選。昭和53(1978)年12月、大平内閣組織。総理就任時68歳。昭和55(1980)年6月12日、衆参同日選挙のさなかに急性心不全で死去。享年70。

総理大臣歴:第68・69代 1978年12月7日~1980年6月12日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

「歴代総理の胆力「大平正芳」(1)エピソードが物語る実直な人間性」のページです。デイリーニュースオンラインは、週刊アサヒ芸能 2020年 3/19号大平正芳内閣総理大臣小林吉弥池田勇人社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
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