大人の趣味講座「デッサン&スケッチ」入門ガイド
絵心とは無縁のまま、今に至っているが、ササッと絵を描かけたらカッコいいかも。しかし初心者が、いきなり描けるものだろうか……。そこで、本誌記者が絵画教室のレッスンを体験!mその様子をレポートする。
【準備】手近な紙と筆記用具で描くためのウォーミングアップ
本誌が頼ったのは、定期的に教室を開催している水彩イラストレーターの足助久美子さん。まずは紙と筆記用具について、「色を塗らない場合は、筆記用具はなんでもいいですよ。初めて描くなら、いつも使っている品が手になじんでいるのでいいでしょう。オススメは水性ペン。滑りがよく、油性と違ってにじまないので描きやすいです。太さの違うペンを何本が使うのもいいですね」と、取り出した数本のペンは、普通の文房具店で手軽に入手できる品々。「鉛筆でもいいんですが、ペンのほうが、一度描いたら消せないという思いから、よく見て描くことにつながります。これは絵を描くときに一番大切にしたいことです」(前同)
とはいえ、初めてだけに、消せないことがプレッシャーになりそうだが、「少しくらい曲がっても歪んでもいいんです。失敗したと思ったら描き直してもいいですが、目立たないように、ごまかしちゃえばOK(笑)。正解や間違いはないので、上手に描こうと意識しすぎず、のびのびとペンを動かしましょう」(同)
それなら、なんとかなりそうだ。足助さんは複雑なモチーフを描くときだけ、鉛筆で下描きするというが、もちろん最後まで鉛筆だけで仕上げてもよい。続いて紙について。「ノートや手帳など、紙もなんでもいいです。サイズも好きなものでいいんですが、初めは小さめのB5程度が手頃でしょう。スケッチブックならサムホールと呼ばれるサイズ。SMなどと表示されています」(同)
道具がそろったら、まずは少し試し描き。運動前のストレッチのような感じだ。「ペンに慣れるため、縦線や横線、波線、丸や四角、三角などを描いてみましょう。やみくもに描かず、線はまっすぐに、丸は円になるようになど、形を意識して丁寧に。肩の力を抜いて、腕全体を使うのがポイントです。イメージ通りの線や形を描くには、手や腕を、どのように動かせばよいかを確認しましょう」(同)
改めて意識すると、同じぐらいの大きさで、いろいろな形を描くのは意外に難しいことに気づく。「次に、柔らかい線や点を描いてみましょう。人によって持ち方や筆圧が違うので、自分が描きやすい位置や力加減、角度を探してみて。私は、絵を描く際はペンの軸の真ん中辺りを軽めに持つことが多いですが、文字を書くのと同じ持ち方で描く人もいますよ」(同)
ペンを軽く持つとコントロールがしにくいので、何度か練習が必要だ。スケッチブックのような表面が凸凹した紙のほうが、線の強弱を出しやすいようだ。
【静物】見慣れた物でもよく観察! 直観を大切に
最初に挑戦するのは静物画。描きやすい物、難しい物はあるのだろうか。「初心者の教室でよく使うのは、レモンやトウガラシなど。複数の候補から好きな物を選んで描いてもらっています。球体などの人工的なツルンとした丸みの表現は、初心者には難しいですね。食材や小さな鉢植えなど、身近な物が描きやすいでしょう」(同)
そこで日頃、目にする機会が多く、一番身近に感じられたレモンを選択。丸ごと1個に、半月型のカットを2つ加えることに。何を描くか決まったら、まずは観察し、配置を決める。「見慣れた物でも、じっくり見ると角度によって見え方が違うことに気づきます。その物の特徴がよく分かるな、と思う角度を探して、好きな位置に配置してみましょう」(同)
レモンをじっくりと眺めたところ、表面が意外にゴツゴツで、形は、いわゆる“レモン型”よりいびつなことに気づく。少し斜めのほうが奥行きを表現しやすそうだし、3つを離して置くと収まりが悪そうと判断し、近くに配置してみる。「複数の物を描く場合は、一番気に入っている物から。画面のどこにあるとよさそうかを考えて描いた後、その位置や大きさを基準に他の物を描くとよいです。最初に2〜3番目に好きな物を描くと、一番好きな物が隅に追いやられて、収まりが悪くなることがあります」(同)
実際に描く際のコツは?「レモンから目を離さず、輪郭をなぞるように描く練習をすると、形を捉える力がつきます。そのうえで直観を大切に、一番気に入っている物の輪郭線を描き、大まかに仕上げてから、2番目、3番目の物を描き足していきます」(同)
まずは手前のカットレモンから。何度か輪郭を目線でなぞってみるが、いざ描くとなると、緊張し、線がこま切れになってしまう。わずかに見える裏側は、上から少し覗き込んだり、横から見たり。「よく見える角度で、特徴をしっかり捉えてから描くといい」と足助さん。果肉は柔らかい線で、3つとも描いてみた。「最後に影をつけます。よく見ると、レモンの真下の影は濃く、その周りの影はそれよりも薄いことが分かりますね。濃淡を意識して描き分けましょう」(同)
なるほど、そうやって影を加えると、少しは立体感がある絵になったような。30分弱で描き終えた。
【風景】遠近感を意識し絵に奥行きを!
風景画と聞くと「構図」を連想するが、難しく考えなくていいと言う。「構図は、初心者から最もよく聞かれる質問です。風景画でも、屋外で好きな物を一つ見つければ大丈夫。それを最初に描いて基準とし、背景など周囲へと描き広げていきましょう。描く前から構図、すなわち、できあがった絵の全体像をイメージする必要はありません」(足助さん)
描きたい物を好きに描くのは、静物画も風景画も同じ。足助さんと「好きな物」を探しながら歩いていると、小さな神社の脇で早咲きの桜を発見した。これを描くことにしよう。「桜の木全体を描く場合は、花を一つ一つではなく、ある程度の塊で捉えるといいですよ。もちろん、枝先だけなど花をアップで描く場合は、花びら1枚1枚をしっかり観察しましょう」(同)
静物画で教わった通り、輪郭を目線で何度かなぞってから、桜の花の塊と幹を描いてみたが、これでは、まるで串に刺さった綿菓子のよう。どうしたものか。「花の塊の中や木肌を少し描き込んでみましょう。一番描きたい物を引き立たせるために、多少、演出してもいいですよ。桜の場合は、花を少し多めに描いたり、桜吹雪を散らすと雰囲気が出せます」(同)
見えにくい細部は、少し近づいたり、角度を変えたり。見えやすいところから見て、特徴をつかんで描くのも、静物画と同じだ。
続いて背景に着手。鳥居と、その奥に見える鐘楼の屋根を描き足したが、全体的に平坦で、のっぺりした印象になってしまった。「さらに奥にある物を加えてみましょう。遠くの物を小さく描いて遠近感を表現できると、グッと立体的になります。手前から奥に延びる道など、画面に斜めの線を入れるのもいいですね。背景も、見える物をすべて描かなくてはいけないわけではありません。一番好きな物が際立つよう、省略しましょう」(同)
背景や道を描き加え、約30分強で完成した。
●鉛筆を掲げるポーズは?
絵を描くというと連想するのが、目線の高さに鉛筆を掲げるポーズ。描く物の比率を計る方法だという。手順はこうだ。
桜の木の縦横比を計る場合。まず鉛筆を垂直に持つ。鉛筆越しに片目で桜を見て、鉛筆の先を木のてっぺんに合わせる。鉛筆の軸の、幹の一番下にあたる部分に親指を当てて、鉛筆を握る。親指の位置を変えずに鉛筆を90度横に。鉛筆の先を桜の左端に合わせ、木の右端と鉛筆の親指の位置、つまり木の高さと幅の比率を確認する。
試しにやってみると、鳥居の縦横比や桜と鳥居の大きさなど、あらゆる比率が気になってきた。やっている人もいるが、足助さんは、「私は、あまりやりません(笑)。全体を写真のような正確さより、一番描きたい物の特徴を表すことを重視しているからです」
やる、やらないはもちろん自由。難しく考えず、やりやすい方法で楽しみたい。
■【人物】ポイントは体の中心線。頭と体のバランスも
人物画は複雑なので、鉛筆で下書きをするといいと足助さん。ポイントは?「よく見て描くのは同じですが、人物画のポイントは体の中心線。その人が見ている方向や描く側が見る角度、すなわち体の中心線がどこにあるかによって、パーツの見え方が変わります。たとえば正面を向いている人なら右半身と左半身が同じ幅に見えますが、斜めだと、どちらかが狭くなりますね。角度によって鼻の形も違って見えます」(同)
見上げたり、うつむいたりしている場合は、目や耳の位置や形、髪の分量も変わるわけだ。
足助さんをモデルに、下描きを開始した。まず髪の膨らみを除いた頭部を卵型で描き、鼻を通る縦の中心線と、目をつないだ横の線を十字に加える。「前かがみだと、背中側が少し見えますね。肩の一番高いラインが、どこにあるかも確認しましょう」(同)
肩のラインも、人間を上から見たときの中心線だ。肩を描いた流れで腕を描こうとしたが、肘をやや引いた位置で曲げている表現が難しい。「風景画と同様に、遠近感を意識しましょう。引いている手足は遠くにあるため少し小さく、短めに。袖口などの丸みのあるカーブを描くと、引いている感じを表しやすいです」(同)
手も難関。描いてみたものの、どうにもペンを握っているようには見えない。「手は、まずミトンの手袋のように、親指とその他の4本で捉えましょう。手の甲が見える場合は、指のつけ根にある関節の位置を決めると、指を描きやすくなります」(同)
●二次元の写真のほうが描きやすい
約30分後、できあがった下書きの人物は、なんだかおかしいような……。「頭が大きすぎます。人間は、頭から脇の下までと、脇の下から腰までが同じ長さ。意識するとバランスを取りやすいですよ」(同)
それを踏まえて再挑戦。「ペンで下書きをなぞると、慎重になりがちなため、線が固くなってしまいます。下描きはバランスを確認する程度で、ペンを持って改めて中心線を意識しながら描くといいです」(同)
さらに約30分。二度の下描き後にペンで描いたものを添削してもらった。1回目より頭と体のバランスは取れたものの、遠近感と手が課題のようだ。「人物画はポイントが多くて難しいですが、ちょっとしたことで特徴が分かりやすくなります。私の初心者の教室では、人物画は写真を見て描いてもらっています。三次元の実際の人間より、二次元の写真のほうが描きやすいですよ」(同)
最後に、これから趣味として絵を始める人に向け、足助さんはこう語る。「50代以上の方の趣味として、とてもいいと思います。楽しみながら、日常的に描く機会を増やしていくと、どんどん手がスムーズに動くようになりますよ」
公園でスケッチブックを広げる。そんな休日、ちょっとイケてるではないか!?