王貞治、巨人入りまでの「壮絶な争奪戦」秘話

日刊大衆

画像はイメージです
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「ファンも選手も熱狂できるスタートを期待したい」ソフトバンクホークスの王貞治会長(79)は、ペナント開幕延期で揺れるプロ野球に、こうエールを送った。

「現在、最速で6月19日の開幕を目指しています。プロ野球はなんとか開幕にこぎつけられると思います。それよりも心配なのは高校野球。高野連(全国高校野球連盟)は、“できる限り準備する”としていますが、インターハイも中止が決定しているため、見通しは厳しそうです」(スポーツ紙記者)

 日本の夏の風物詩である高校野球。かつて、早稲田実業のエースとして甲子園を沸かせた王会長も、心中穏やかではないはずだ。今回は、“甲子園のスター”だった王貞治の巨人入団秘話をお届けしたい。(文中一部=敬称略)

 昭和33年の夏の甲子園大会が終わった3日後の8月22日、日刊スポーツ一面には、こんな見出しが躍った。

〈早実・王投手 阪神入り濃厚〉

 この記事に目を白黒させたのが、甲子園大会の取材を終えて東京に戻っていた報知新聞(現・スポーツ報知)のデスクだった。

「寝起きにこの記事を目にした瞬間、眠気が吹き飛んだのを覚えています。当時の球界では、王は早大に進学するのが既定路線だと思われていたので、信じられませんでしたね」

 その記事が頭から離れない報知のデスクは、“裏取り”のため、出社前に押上(東京都墨田区)にあった王の実家を訪ねることにしたという。王の実家は『五十番』という名の中華料理店を営んでいた。

 デスクが訪ねてみると、王は武蔵関にある早実のグラウンドに練習に行っており、不在だった。王の両親に探りを入れてみると、明言こそしないものの、否定もしなかったという。

「阪神入りは確実だな」こう直感したデスクは、王の両親にこう言い残して、急いで店を出た。

「王くんにも話を聞きたいので、夕方もう一度、お邪魔させてもらいます」そうは言ったものの、社に戻り仕事を片づけると、終電間際になっていた。

「迷惑だと思ったけど、午前0時過ぎに再び王の実家を訪問しました。両親も王も律義に寝ずに待っていてくれました。両親の了解を取り、王を浅草に連れ出して、2人で深夜営業している喫茶店に入ったんです」

 王は報知のデスクに、こう打ち明けたという。

「実は佐川さん(阪神のスカウトを担当していた佐川直行)に、“お世話になります”と返事をしたんです」

 夏の甲子園大会に出場したこともある佐川は、立教大学を卒業後、銀行員を経て日本野球連盟(現在の日本野球機構=NPBの前身)に入社し球界入り。その後、大映、中日のスカウトを経て阪神のスカウトになっていた。当時の球界を代表する“敏腕スカウト”だ。

■「王くん、それは“約束違反”だよね……」

 バツが悪そうにアイスコーヒーをすする王に、そのデスクはこう切り出した。

「王くん、佐川さんに返事をしたのはどこだったの? そのときは、王くん一人だったの?」

 すると王は、「はい。場所は吉祥寺のレストランの2階でした。佐川さんと食事に行ったんです。僕一人だけでした」

 王の返事を待つとデスクは、用意していた言葉をすぐさま投げかけた。「王くん、それは“約束違反”だよね……」

 実は球界関係者と王の家には、取り決めがあった。王の実家を訪れる関係者は、プロ球団はもとより、社会人野球、大学関係者と引きも切らなかった。そこで、生真面目な王の両親は、「貞治は未成年ですので、重要な話をする際は、必ず私たちか、兄の鉄城を同席させてください。貞治が一人のときにどんなお話をされても、それは認められませんからね」と、関係者にクギを刺していたのだ。デスクは沈黙する王に、こう続けた。

「佐川さんに阪神に行くと返事したことは、ご両親は知っているの?」

「まだ言っていません。ただ、佐川さんから熱心に誘ってもらっていることは、両親も知っています」

 報知のデスクは、系列球団の巨人が王を欲しがっていることを知っていた。ただ、巨人は「王は早大進学」と、諦めていたのだ。

「新聞記事まで出てしまった今、一刻の猶予もない」

 そう考えたデスクは、王にこう言った。

「阪神はご両親との約束を破ったわけだよね。だから、まず、ご両親に、そのことを話さなくてはいけないよ」

 王と押上の実家に戻ると、時刻は午前1時を回っていた。デスク同席のもと、王が両親に一部始終を説明すると、母親の登美さんが、「貞治、あれだけ言っておいたのにダメじゃない」と、王を叱った。続けて父親の仕福さんが、「明日、鉄城から佐川さんに、“貞治との約束はなかったことにしてもらう”と連絡させます」と言った。

 佐川スカウトの無念やいかばかりか。この瞬間、阪神入団は白紙に戻ったのだ。

 その時、敏腕スカウトの佐川はーー? この続きは、5月18日発売の『週刊大衆』6月1日号で。

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