日米で王者に君臨した女子ファイターは「時を待つ」(前編)

日刊大衆

浜崎朱加
浜崎朱加

バナー題字・イラスト/寺田克也

アメリカで開催される世界最大の女子総合格闘技大会INVICTAと、日本のRIZINの両方で王者となり、女子格闘界の頂点を極めた浜崎朱加。昨年大みそかのRIZINでは“宿命のライバル”ハム・ソヒの挑戦を受け、大激戦の末にスプリット判定で王座陥落したが、この試合は大会ベストバウトとの呼び声も高かった。現在、新型コロナの影響で格闘技大会も開催されず、ジムでの練習もままならぬ中、元王者・浜崎はどんな日々を送っているのか? 直撃電話取材を試みた。

「毎日、動物としか触れ合ってないです」

――新型コロナで多くのイベントが中止になり、格闘技大会の中止・延期も増えていますが、浜崎さんが現在主戦場としているRIZINの4月19日に予定されていた横浜アリーナ大会もなくなってしまいましたね。

「その前に私は修斗主催の柔術大会で、藤井惠さんとエキシビションをするはずだったんですが、それもなくなって。(3月22日に岡山で開催の『修斗杯柔術選手権2020中国』で浜崎は、先輩で女子格闘界の“レジェンド”藤井とのエキシが予定されていたが、直前に中止が決定)

 私は格闘技以外に週2回、クリニックでリハビリの仕事をしているんですが、仕事のほうは変わらずあるんですけど、これまでは夜、仕事後いつも練習に行ってたのが、今はないので。仕事以外、ずっと家にいる感じです」

――リハビリのお仕事も“濃厚接触”になってしまうから、大変なのでは?

「患者さんの身体に触れたりもするので。そして、こういう状況のわりには、けっこう患者さんも来てますし。年配の方もいらっしゃいます」

――マスクなどを付けて感染を避けるよう気をつけながらお仕事をされているとは思いますが、気になるところですよね。

「そうですね。消毒など、時間を決めて、皆でやってます。(クウクウ、と鳴き声がする)
すみません、ちょっと犬が。話してると、気になるみたいで……(苦笑)」

――大丈夫です(笑)。ツイッターに写真をアップされてたワンちゃんですか?

「あ、そうです!(笑) 他に猫も3匹いるんですよ」

――全部で4匹!? 家にいると、毎日ペットの犬や猫と過ごす時間が多くなる?

「そうですね。動物としか、触れあってないです。でも自粛でペットと一緒に過ごす時間が増えたんで、ペットにとっては、いいかなって。フフフ」

触れ合う時間が増えたという愛犬との2ショット(本人提供) 触れ合う時間が増えたという愛犬との2ショット(本人提供)

「基礎的なトレーニングしかできないけど、焦りはありません。こういう時間を持つのもいいかな、と」

――AACC(浜崎の所属するジム)での練習は今できない状態?

「ええ、そうなんです。(AACCが入っている)ゴールドジムが閉まってしまって」

――今の状況だといつ緊急事態宣言が解除になるのかも、予想がつかないですよね。感染者数は減りつつあるようですが……

「まだ終息する様子はないし、終わりが見えない感じがします」

――今は対人練習が全然できないような状況ですか。

「そうですね、してないです、全然」

――1人でできるトレーニングは、どんなことを?

「家でできる簡単なことだけですね。鉄アレイとかで筋トレしたり、腕立てしたりとかくらい」

――基礎的トレーニングのみ。

「そうです。ちょっと筋肉痛になるかな、ってくらいの。やっぱりマシンがないと限界があるので。できることをしてますけど、そこまで強度の高いトレーニングはできてないですね」

――これまではジムでマシンやウエイトもそろっていたから、自宅にそこまで重い重量の鉄アレイや器具もないでしょうしね。

「軽いのしかなくて。でも私の中では、焦ってる、とかもなくて。ちょっと息抜きってわけじゃないですけど、そういう期間でもいいのかな、と思ってます」

――焦ってもしょうがないですもんね。

「はい。やっぱり先が見えないですからね」

「ハムちゃんは2戦目よりフィジカルが強くなっていた」

――最後の試合は去年の大みそかのRIZINでのハム・ソヒ戦ですね。あの試合は大激闘でしたが、惜しくも1-2のスプリット判定で敗れてしまいました。彼女とは3度目の対戦でしたね。

「はい。ハムちゃんとは、けっこうやってますよね(笑)」

――最初の2戦は浜崎さんが勝ってます。初戦2010年12月で3-0の判定勝ち、2戦目は翌年12月でTKO(テクニカル・ノックアウト)でしたが、3戦目までかなり時間が空いていますね。8年前と比べて、ハム選手は強くなったと感じました?

「いや、2戦目はTKO勝ちでしたけど、向こうが負傷して止められた形だったんです。今回と同じで、1Rで私は三角(締め)に入られていました。その中での負傷TKO勝ちだったんで、あまり勝ったって感じじゃなかったんです。今回も8年前と同じようなこと(三角締め)をされてるんですよね(苦笑)。

(2戦目では浜崎が胴タックルでテイクダウンし、その際にソヒは腰を強打。ソヒはその後、下から三角締めを狙うが決めることはできず1Rが終了。しかしソヒは腰の痛みで起き上がれず、浜崎のTKO勝利となった)

 だから、あの時より、お互い強くなってますけど、ハムちゃんの戦いのスタイルは、そこまで変わってなかったかな、っていう印象です」

――スタンドの打撃も、それほど以前と変わった感じはなかった?

「打撃に関しては、彼女は昔からあのスタイルで変わってないですね。ただ、一発の強さ、パワーとかフィジカルは前よりもかなり強くなっています。前戦った時は、階級が1つ上だったんですけど、その時より体もできてるし、フィジカルの部分ではレベルが1つ上な感じがしました」

――総合格闘技ではスタンディング状態での打撃、投げやタックル、寝ワザでのサブミッションやパウンド(打ち下ろす打撃)など、身に付けなくてはいけないことがたくさんある。浜崎さんはもともと柔道出身で組技系ですが、組ワザ系の人が打撃の練習を何年も続けて上達してくると「試合でこれを使いたい」と思ってきますよね。

「ええ、まさしく」

――そこで、ちょっといいパンチを入れることができると、「よっしゃ~! これでKOするぞ!」って、なりがちで。

「アハハ、そう! やっぱり、打撃でKO勝ちって、憧れますよね。試合でしか本気で殴り合わないんで」

――ボクシングの選手だと、大きいグローブにヘッドギアもつけて、ガチで殴り合うスパーリングもあるけど、総合だと、オープン・フィンガー・グローブ(相手をつかめるように指の出た総合格闘技用グローブ)はかなり薄いし、ガチでのスパーリングはしにくいですよね。骨折やカットもしやすいし。

「なかなか、ねえ……。でも、こないだの負けはプラスになった負けだったな、と思ってますから、まあ、良かったです」

――見てて面白かったです、ホントに。あの大みそかのRIZINの全試合中、一番見ごたえがあったんじゃないですか。

「ホントですか? ありがとうございます!(笑)」

↓あの興奮がよみがえる! 熱戦のもようがノーカットで!

 後編では、ハム・ソヒとの再戦への思いと、新型コロナウイルスの影響で自粛を余儀なくされる今の気持ちを聞いた。

(取材・文=稲垣收)

浜崎朱加(はまさき あやか)
1982年山口県生まれ。総合格闘家。AACC所属。高校から柔道を始め、2009年プロデビュー。10年にJEWELS初代ライト級王者、15年に米Invicta FCアトム級で日本人初の世界王者となり2度防衛に成功。18年からRIZINに参戦し、同年大みそか、浅倉かんなに一本勝ちして初代RIZIN女子スーパーアトム級王者に。総合戦績19勝3敗。米の格闘技サイトSherdogの女子アトム級世界ランキング2位。
Twitter:@kk331ayaka Instagram:ayaka0331

稲垣 收(いながき しゅう)
1962年東京生まれ。語学月刊誌の編集を経て、89年よりフリーライターに。モスクワ・クーデター、ドイツ統一、ソ連崩壊、グルジアやユーゴ内戦、パレスチナ等を取材。92年から格闘技の取材も。「UFCー究極格闘技ー」(WOWOWで)では長らく解説を務めた。自らもキックボクシングなどさまざまな格闘技に親しむ“闘うジャーナリスト”。著書に『稲垣收の闘魂イングリッシュ旅行編』『男と女のLOVE×LOVE英会話』、訳書に『KGB格闘マニュアル』などがある。
Twitter:@ShuInagaki

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