重力は遺伝子に影響を与える。宇宙に運んだ線虫の体内で多数の遺伝子が変化したことを確認(NASA)
重力は遺伝子に影響を与える /iStock
地球とは全く異なった環境にある宇宙。やはり宇宙への進出は生物の変化をうながすのだろうか? 国際宇宙ステーションに滞在した線虫の体内では、1000近くもの遺伝子が変化したそうだ。
NASAや英エクセター大学をはじめとするグループが『iScience』(11月25日付)で発表した研究は、長期間微重力にさらされると、遺伝子レベルで細胞が変化することを示唆している。
・国際宇宙ステーションに持ち運んだ線虫の遺伝的変化
今回実験台となったのは、「カエノラブディティス・エレガンス」というモデル生物として広く利用されている線虫だ。
これを国際宇宙ステーションに持ち込み、数週間ほど微重力環境で飼育。その後、地球に残されたものや遠心分離機で強い重力にさらされたもの(違いを際立たせるため)と比較した。
その結果、ほとんどの変化は軽微なものだったが、神経細胞の機能や細胞代謝に関連するもっと重大な遺伝的変化もいくつか観察されたという。
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・無重力が人体に与える影響
じつは宇宙に長期間滞在すると、健康に悪影響が出ることが知られている。たとえばこれまでの観察では、脳の体積や形状の変化、筋肉・心臓細胞・腸などへの影響が確認されている。
線虫の実験で観察された変化は、宇宙に滞在した宇宙飛行士で観察された分子的・生理学的な変化に似ていたという。
「こうした変化は、宇宙飛行で体に悪影響が出る理由を説明できるかもしれません。それだけでなく、現在深宇宙の探索を妨げる大きな障害であるこうした健康への影響を和らげる治療のヒントにもなります」と、英エクセター大学のティモシー・エサリッジ氏は話す。
宇宙が人体に与える影響を克服する第一歩は、まずその分子レベルでのメカニズムを理解することだ。今回の発見は、哺乳類や人間が受ける影響を解明するための基礎になるだろうと研究グループは述べている。
References:upi / eurekalert/ written by hiroching / edited by parumo