モーニング娘。が生き残りのために選んできた「選抜に頼らない決断」
選抜制度がない日本のアイドルグループと言えばハロプロ。その中でも人数が多いモーニング娘。はなぜこれまで一度も選抜制度を取ろうとしなかったのか。その理由を探すと見えてきたのは、グループ存続のために選んだ苦渋の決断と覚悟だった――。
「モーニング娘。は一体いつから、チームプレイのイメージで語られるグループに変化していたのだろう」
ふとそんなことが気になったのは、まさにこの原稿の執筆依頼に添えられていた「モーニング娘。=序列化システムのない世界」という一文を目にした時だった。確かに48グループの「選抜総選挙」や坂道シリーズの「アンダー制」など、アイドルグループ内の序列化システムがすっかり定着している2021年現在、隣の芝生のモーニング娘。といえば比較的平和な環境の中にある。ここ最近のCDジャケットを見てみても、立ち位置や写真のサイズは区別されることなく、メンバー全員至って均等な形に割り振られている。そしてその感覚は送り手であるメンバーやスタッフのみならず、ちょうど公開されて間もないモーニング娘。の最新MV(『ギューされたいだけなのに』)のコメント欄にあった「センターってもう死語やね」というつぶやきを見る限り、受け手であるモーニング娘。ファンの間でも、とっくに普遍的なものとして共有されてきているもののようなのだ。
しかしモーニング娘。にはかつて、センターポジションや歌割といった分かりやすいグループ内序列の変遷で、注目を集めていた時代も確かに存在する。特にASAYAN(テレビ東京系・1995~2002)をリアルタイムで見ていた世代の中では、黒と赤を基調とした特徴的なあの映像演出によって、結成直後のモーニング娘。の活動を常に覆っていた緊張感が、いまもそのまま鮮烈な記憶として刻み込まれているはずなのである。
だとすると、モーニング娘。は一体どこでそれらの時期を過去とし、序列化システムのない新たな世界の方へと踏み出す決断を下していたのだろうか。そんなことを考えながらモーニング娘。の歴代CDジャケット一覧をもう一度最初から見返していたら、ある領域に差し掛かったところで目が止まった。
「もしかすると、その分岐点こそ“プラチナ期”にあったのではないか?」
2007~2010年のモーニング娘。を指している“プラチナ期”、それはもうすぐ結成24年になろうとしているグループの歴史の中で、未だに最長記録となっている約2年半のメンバー固定期間である。
そしてもうひとつ、それはモーニング娘。にとって「ついにNHK紅白歌合戦の連続出場記録が止まってしまった」、そんな悔しさの歴史が刻まれている時期でもあるのだ。
なぜあの時、紅白歌合戦の落選によって辛い現実を突き付けられたプラチナ期のモーニング娘。は、同時進行でAKB48の選抜総選挙が大きな盛り上がりを見せていくのを横目に、「序列化システムに頼らない」チーム単位のスキルアップへと舵を思いっきり切っていたのだろうか。
それはやはりただ一点、モーニング娘。はあの時ごくシンプルに「たとえ時代が何回変わってもグループが生き抜いていける」ほうを選んでいたのだ。
■AKB48が新たな国民的アイドルグループとなって
もちろん、たとえそこで勇気を持って決断したからといって、すぐにモーニング娘。の努力が報われたり、状況がいきなり好転したりということはまったくなかった。実際にモーニング娘。に変わって新たな国民的アイドルグループとなったAKB48が『ポニーテールとシュシュ』や『ヘビーローテーション』を次々と大ヒットさせていた頃、再出発したばかりのモーニング娘。全国ツアーはまだ、1000~2000席規模のホール会場がメインとなっていたのである。
しかしそれでも、メンバーがどんどん入れ替わろうと、決して焦らずに、貯めた経験値をチームとしての完成度にコツコツ還元させていったことで、モーニング娘。は2013年に(卒業者がない状態での)日本武道館単独公演、2014年には横浜アリーナ単独公演、そして2019年末にはグループ史でも初となる国立代々木競技場第一体育館での単独公演の開催まで、それぞれ実現させることになったのだ。
2019年末の国立代々木競技場第一体育館公演の時点で、すでにモーニング娘。は紅白歌合戦に出られなくなってから、もう11年が経過しようとしていた。
……とここまでこんな長々と昔話を綴ってしまったのには、ちゃんと理由がある。それはまだもう少し紅白歌合戦の出場記録を伸ばし続けるだろう坂道シリーズとは違い、48グループはもうこのタイミングで、おそらく様々な変化の決断に迫られていくのだろうなと感じ始めているからである。
何より「この2年間、先輩方が繋いでくださったバトンを私たちの代で何度も止めてしまいました。そして今日も。それが何より申し訳ないし不甲斐ないです」というAKB48グループ総監督・向井地美音の言葉は、かつて“プラチナ期”のモーニング娘。が持ち合わせていた感情、本当にそのままなのだ。またモーニング娘。の事例を見る限り、そこではもしかしたら、彼女たちの人気を支え続けた選抜制度さえ、存続か撤廃かを問われる日がやってくるかもしれない。その時にファンができることとは、果たして過去の成功例を踏襲して、グループの行き先を数の力だけで指し示すことだけなのだろうか?
きっとそれ以上に48グループでこれから必要とされていくのは、それこそどんな場所のどんな小さな変化も見逃さずに声援を送り続ける、そんなアイドルとファンの地道な信頼関係なのではないだろうか。
そんなことを、遠くて近い私の立場では、思っている。
文●乗田綾子 PROFILE のりたあやこ フリーライター。1983年生まれ。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルを中心に執筆。現在は著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版しているほか、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』、ウェブメディア『週刊女性PRIME』などでも執筆。
(EX大衆2021年2月号「アイドルにとって選抜とは何かを考える」モーニング娘。)