新山千春が青森からの上京時からお世話になった街中華はいまや行列必至の名店に
アイドル食堂・第58回 兆徳

■数々の芸能人が絶賛する町中華
アイドルだってメシを食う。愛するメシのためには行列にも並ぶ。行列のできる町中華はそんなにないが、今年で創業26年目を迎える、本駒込の「兆徳」は予約もできず、ピーク時には入店まで30分は待つ人気店。カリッとしてもちっと来る絶品の焼き餃子、ふわパラの黄金色した玉子チャーハンなどで有名だ。
常連の芸能人も多い。昭和平成の名人と謳われた落語家の古今亭志ん朝も、寄席へ行く前に餃子とチャーハンを求め足繁く通い、店には色紙も残されている。「今でしょ!」の林修先生も東大在学時に何度となく足を運び、「おいしさの理由がわからない」ほど美味だと、同店のチャーハンを絶賛。18年9月には司会を務める『林修のニッポンドリル』(フジテレビ系)でも紹介した。
餃子好きで知られる鈴木砂羽も自身のWeb連載で同店のあんかけ餃子を採り上げた。さらに林司会の『林先生の初耳学』(TBS系)においても、鈴木は自分史上ベスト3に入ると、兆徳の餃子を礼賛した。また、人気絶頂の高橋一生も16歳の頃から家族で通い詰めているのは主人のご自慢で、自ら20年5月放映の『鬼旨ラーメングランプリ』(フジテレビ系)で語っていた。
2020年10月4日放映の『情熱大陸』(TBS系)の主役はその主人、朱徳平さんだった。ぼくは出張先の名古屋のサウナで番組を見て、なんともたまげてしまった。いくら名店とはいえ、東京ローカルな話題が通じるのだろうかと……。
だが、見ているうちに納得。朱さんは中国では河南省の役所で財務課長を務めるエリートだった。妻の母親が日本人だったため留学目的で30年前に来日するが、言葉も不自由だったので、中華屋でアルバイトするくらいしかなく、そこで料理を覚えたのだ。
やがてミイラ取りがミイラとなり、日本の町中華の深みにはまっていく。だから、朱さんも「うちの中華は中国の味ではなく、日本の味なんです」と語る。おそらく町中華を体系的に紹介した日本初の本、『愛しの街場中華』(光文社)の著書の自分には、朱さんが決して他人とは思えない。
■兆徳オープンの年にホリプロタレントスカウトキャラバン受賞
そんな兆徳に育てられたタレントはまだいる。最近40歳を迎えたばかりのママドル、青森出身の新山千春だ。彼女は昨年9月28日付のブログでこう書いている。
「高校時代! こちらから徒歩1分の場所に住んでたの。。
わたしが当時住んでたマンションにサプライスで誕生日ケーキ(絵文字:ケーキ)を届けてくれたこともあったり、
母が仕事で遅い時は1人でラーメン(絵文字:ラーメン)食べることもあった。。
わたしの兄が東京にきたら今も兆徳いこーー!って言う」
千春は兆徳創業の年でもある95年、第20回ホリプロタレントスカウトキャラバンの審査員特別賞を受賞。と同時に上京し、堀越高校に通いながら、芸能活動を開始し、96年の映画『お日柄もよくご愁傷さま』で女優デビューを飾った。
文面からすると、母もついて来て、東京で働きながら、デビュー後しばらくは娘の世話を焼いたと見える。家族丸ごと世話になった店が、まだ行列店となる前の兆徳だったとは……。その母も現在は闘病中という。千春はブログでさらに続ける。
「約20年ぶりにお店に行った時は絶対来てくれるって思ったよと、涙を溢しながら、強く手を握ってくれたマスターの人柄に、嬉し涙で再会した事もありました。
味はもちろん!マスターのお人柄もスタッフさん方も素敵で 家族で大好きなお店です(絵文字:花)」
最近になって久々に来店し、再び密に交流するようになったらしい。彼女は昨年5月13日発売の『週刊現代』(講談社)の連載、『私のベスト3』でも兆徳の餃子を挙げ、「嚙むとモチモチの食感で、中のあんはジューシー。シンプルかつ完成された味です」とコメントしている。
18年4月30日更新のブログには、16才のデビュー当時の写真を公開している。「標準語も話せないし 東京で生活して行けるのか 東京に友達0人!不安しかなかった時代」だった。確かにデビュー時の彼女は驚きの美少女だったが、訛りのせいだけでなくどこか垢抜けず、臆病さが表情に出てしまっていた。
「笑ってる写真が当時は少なかったなぁ。。。 寂しくて、不安で、悩んで 早くも青森 に帰りたくてもがいていた頃。。。 この頃の自分に言ってあげたい言葉がいっぱいあるなぁ」と、当時を振り返る。
だが、そんな彼女の支えになっていたのが兆徳だった。女涙の町中華。『情熱大陸』に彼女もチラッと登場したらしいが、おそらくサウナから水風呂に移動した間のことで、ぼくは見逃してしまった……。
ぼくもこんなホームグランド中華を持ちたいと、つねに願っている。『情熱大陸』が脳裏にこびり付き、中国で活躍するビジネスマンの知人と、昨年末に数年ぶりに兆徳を訪問。知人はしばれる寒さの下、先に並んで待っていてくれた。近所に住みながらも兆徳はお初とかで、ともかく最初から最後まで「旨い!」の連発だった。
餃子やチャーハンはむろんのこと、やはり看板メニューのトマト玉子炒めを知人は激賛。ふわとろの食感が素晴らしいだけでない、素材の旨味がシンプルかつダイレクトに伝わるのは、チャーハン同様でぼくも唸ってしまった。新山もブログでハッシュタグ付けしており、海老とピーマンと玉ねぎの炒め物も同じくだった。今度はそちらを目当てに、すぐにでも再訪したい。
朱さんは二回来店した客の顔は記憶し、好みのメニューも忘れないという。行列の煩わしさに、10数年の間に3回だけ訪れたぼくを、次に行く際は覚えてくれているだろうか。そしたら、新山のこともいくらか尋ねてみようと思う。
(取材・文=鈴木隆祐)