伊藤万理華、生駒里奈&井上小百合の個人PVにとって重要な役割を果たしてきた個性派俳優【乃木坂46「個人PVという実験場」第16回4/5】
乃木坂46「個人PVという実験場」
第16回 ナイロン100℃とのリンク 4/5
■ナイロン100℃が所属する事務所の個性派俳優
前週まで、乃木坂46が映像作品や舞台演劇を制作するなかで、劇団・ナイロン100℃とのリンクがしばしば生じていることについてみてきた。
そのナイロン100℃は2008年から芸能事務所の株式会社キューブに劇団の業務を移管し、以後、主宰のケラリーノ・サンドロヴィッチら複数の劇団員もキューブに所属することになる。
俳優のみならず演出家等も所属する同社には、2018~2019年に乃木坂46メンバー主演でミュージカル「美少女戦士セーラームーン」の鮮烈なリブートを手がけたウォーリー木下らも在籍している。
このキューブに長年所属する俳優の中にも、乃木坂46の個人PVに関わりのある人物がいる。若くして独特のインパクトを確立し、いくつもの作品に爪痕を残し続けてきた加藤諒である。加藤が乃木坂46の個人PVに姿を見せるのは2015年、13枚目シングル『今、話したい誰かがいる』に収録された、伊藤万理華主演「GO,GO!イサキちゃん!第1話」(監督:熊坂出)でのことだった。
https://www.youtube.com/watch?v=lHyyu1RnWFU
(※伊藤万理華個人PV「GO,GO!イサキちゃん!第1話」予告編)
雨の中、一風変わった理屈をつぶやきながら、落ち葉に苛立ちをぶつけるイサキ(伊藤)。そこに通りがかり、イサキの不条理な言い分に付き合いながら、少しずつ打ち解けてゆく人物を加藤は演じる。
ためらいがちにイサキとコミュニケーションをとろうとする加藤は、イサキに比べればごく常識的なロジックを持つ人物である。しかしまた、ある種の寓話性すら覚えるようなキャラクターをまとう加藤の存在感は、伊藤演じるイサキの、いささかエキセントリックでピュアな人物像と不思議なマッチングを見せる。
独特のリアリティの水準をもったこのショートドラマにおいて、加藤諒という俳優の有する個性はきわめて重要な役割を果たしている。
一方、この風変わりなドラマを監督する熊坂出は、乃木坂46のフィルモグラフィーの中では普段、どちらかといえばドキュメンタリー作家としてのイメージが強い。彼が担当してきた岩瀬佑美子、星野みなみ、橋本奈々未、生駒里奈らの個人PVは、いずれもドキュメンタリーの体裁をとる。そして、これらの作品は当該メンバーになにがしかの課題を設定し、それを乗り越えるストーリーを志向することが多い。いわば、メンバーに負荷がかかるさまが見えやすい作風でもある。
■生駒里奈と井上小百合の傍らに佇む男子生徒
しかし、乃木坂46作品の中で熊坂がドラマを手がけるとき、それらドキュメンタリー制作の際とは大きく異なる爽やかさを描き出す。その代表が、生駒里奈と井上小百合のペアPV「踊るバカ、神様の嫉妬」(シングル『太陽ノック』収録)である。
https://www.youtube.com/watch?v=bfKgAfqg2GU
(※生駒里奈・井上小百合ペアPV「踊るバカ、神様の嫉妬」予告編)
ダンスを趣味とする女子生徒2人と、その傍らに佇む男子生徒の3人組が織りなす三角関係を描いたこの作品は、2015年に乃木坂46が二度にわたって試みた「ペアPV」企画の中で生まれた一篇である。
3人全員が、それぞれ互いに少しずつ何かを隠し、いくつかの関係がささやかに軋み、あるいは破綻しながら、それでもなお3人の親密な関係は続いていく。このドラマもまた、ごく日常的な出来事のみで構成されながらも、いくぶん理想化された爽快なラストシーンは、ともすれば現実離れした美しさがある。
そしてこのドラマもやはり、乃木坂46メンバーと共演する俳優が、作品の成立に大きく貢献している。本作「踊るバカ、神様の嫉妬」で助演を務めるのは、藤原季節。近年は映画「his」(監督:今泉力哉)や「佐々木、イン、マイマイン」(監督:内山拓也)などでの活躍も目覚ましい藤原が、ここでは甘酸っぱく歯がゆい感情を持て余しながら、生駒と井上のダンスを見守る。
ストーリー中に2人と同等に藤原が並び立つことで、乃木坂46内が生み出してきた他のドラマ作品の数々ともまた異なったバランスの物語が生まれた。