ひな祭りの特別ゲスト?ひな人形に飛鳥時代の歌人・柿本人麻呂が飾られる理由とは

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ひな祭りの特別ゲスト?ひな人形に飛鳥時代の歌人・柿本人麻呂が飾られる理由とは

♪あかりをつけましょ ぼんぼりに
おはなをあげましょ もものはな
ごにんばやしの ふえたいこ
きょうはたのしい ひなまつり……♪

※唱歌「うれしいひなまつり」第1番。

雛祭りを楽しむご家庭。Wikipediaより。

3月3日はひな祭り(桃の節句)。女の子がいるご家庭では、思い思いにひな人形を飾ってその幸せを願います。

ひな人形にはさまざまなパターンがありますが、一般的なフルメンバーは以下の通りです。

一、内裏雛(だいりびな。雄雛と雌雛)
一、三人官女(さんにんかんじょ)
一、五人囃子(ごにんばやし)
一、随身(ずいじん。右大臣と左大臣)
一、仕丁(しちょう。怒り、泣き、笑い)

※よく雄雛(≒天皇陛下)を「お内裏様」と言いますが、厳密には雌雛(≒皇后陛下)とペアで「お内裏様」です。

ひな人形の勢ぞろい。Wikipedia(撮影:David Wiley氏)より。

ここに人形メーカーがオリジナリティを出そうと特別ゲストを登場(追加)させるのですが、以下の組み合わせが多いようです。

一、三賢女(小野小町、清少納言、紫式部)
一、鶴と亀(能の演者)
一、三歌人(小野小町、柿本人麻呂、菅原道真)

女の子のお祭りなので、賢く美しい女性に育って欲しいとの思いから三賢女は解ります。健康成就を祈る意味から、鶴と亀も納得です。

でも、三歌人(和歌にすぐれた三人)はどうして雛祭りに登場するのでしょうか。

小野小町(おのの こまち)は絶世の美女と言われましたから、美しく育って欲しいとの願いを込めて、菅原道真(すがわらの みちざね)は学問の神様として現代でも信仰されていますが、柿本人麻呂(かきのもと ひとまろ)はちょっと道真とキャラがかぶっている気がします。

絶世の美女・小野小町と、学問の神様・菅原道真。Wikipediaより。

平安貴族にとって和歌は教養の基礎でしたから、和歌にすぐれた人麿にあやかって、教養ある女性に育って欲しいという願いでもいいのでしょうが、どうしても小野小町や菅原道真と重複しているようでスッキリしません。

そこで今回は、柿本人麻呂がひな人形に登場する理由について調べてみたので、紹介したいと思います。

逆境にくじけない強さと、隠れなき和歌の才能

柿本人麻呂(斉明天皇6・660年ごろ生~神亀元・724年3月18日没)は飛鳥時代に活躍した歌人で、その卓越した才能から、後世「歌聖(かせい。歌のカリスマ)」と称えられています。

ただし、その身分は低かったとも言われ(諸説あり)、格調高い和歌の作風とギャップから心ない者たちにいじめられていた可能性も考えられます。

「何だよ、下賤の分際で意識高い系の和歌を詠みやがって(妬ましい)!」

貧しくても豊かな心を保ち、素晴らしい和歌を生みだした柿本人麻呂。Wikipediaより。

まさに「出る杭は打たれる」ですが、それでも人麻呂の光り輝く和歌のセンスは隠しようがなく、日本の青春文学とも言える『万葉集(まんようしゅう)』をはじめ、彼の和歌は古典文学に生き生きとした彩りを添えています。

こうした人麻呂の「逆境にくじけることなく、隠れなき才能をあらわした強さ」にあやかって欲しくて、ひな人形に仲間入りしたのでしょう。

また、その死後に神様として祀られた人麻呂は、時代が下るにつれて「人丸(ひとまる)」と呼ばれるようになり、「ひとまる」⇒「火、止まる」「人、産まる」というダジャレから、防火や安産のご利益も考えられるようになりました。

現代では多様な価値観が認められるようになりましたが、かつて女の子は台所≒家の火を守り、子供を産むことが大きな使命としてとらえられていたため、防火・安産の神様である人麻呂は女の子の幸せを祈るお祭りにうってつけとされたのでしょう。

♪着物をきかえて 帯しめて
今日はわたしも はれすがた
春のやよいの このよき日
なによりうれしい ひな祭り…♪
※唱歌『うれしいひなまつり』第5番。

何段にもなる豪華なお雛様も、心を込めて手作りしたお雛様も、幸せを願う大人たちの心はみな同じ。どうかすべての女の子が、末永く幸せでありますように。

※参考文献:
北山茂夫『柿本人麻呂論』岩波現代文庫、2006年9月
篠原央憲『柿本人麻呂いろは歌の謎』三笠書房、1990年10月

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