スーパーバグキラー。薬物耐性菌を破壊するナノコーティング素材が開発される (1/3ページ)
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抗生物質が効かない「薬物耐性菌(スーパーバグ)」の出現は、現代医療が直面する大きな脅威だ。
現時点ですら、耐性菌による死者は毎年70万人以上いる。世界保健機関(WHO)によると、もしこれを克服することができなければ、2050年までには1000万人が耐性菌によって命を落とすようになると予測されている。
その切り札として、オーストラリア、RMIT大学のグループが新兵器を開発した。もともとは次世代電子機器の分野で注目されてきた極薄の二次元素材を素材をナノコーティングすることで、耐性菌の細胞を物理的に切り裂くのだ。しかも人体には無害であるという。
・黒リンをナノコーティングして耐性菌を引き裂く
『Applied Materials & Interfaces』(4月12日付)で紹介されているのは、「黒リン」を使ったナノレベルの極薄コーティングだ。インプラントや包帯として使われるチタンや綿などをこれでコーティングすれば、抗生物質が効かない耐性菌であっても物理的に引き裂いてしまう。
25000倍に拡大した黒リン・ナノレイヤー(赤)と、それに触れた真菌細胞(緑) / image credit:RMIT University
黒リンは酸素があると崩壊する性質がある。これは電子機器にとっては大問題で、その解決のために超精密な工学技術が研究されてきた。
ところが医療への応用に目を向ければ、この性質が微生物を殺すにはうってつけだった。黒リンが崩壊するとき、細菌や真菌の細胞表面を酸化させる。これによって細胞を物理的に引き裂いてしまうのだ。